子どもが安心して学べる教育予算への抜本的な転換を 政府予算案閣議決定にあたって

【全教談話】  2020年度政府予算案の閣議決定にあたって

            2019年12月25日

           全日本教職員組合(全教)

           書記長 檀原 毅也

 

(1) 消費税増税などで国民負担を増大する一方、アメリカいいなりの武器“爆買い”で「戦争する国」づくりにひた走る大軍拡予算

 

 2019年12月20日、政府は2年連続で100兆円超えとなる過去最大の総額102兆6580億円(2019年度当初比1.2%増)の2020年度予算案を閣議決定しました。10月の消費税増税によって、一般会計における消費税収は21兆7190億円となり、最多の税目となりました。国民負担増による景気の落ち込みに対し十分な経済対策がとられているとはいえません。その一方で、防衛省予算が6年連続で過去最大を更新し5兆3133億円に達しました。その中身は、護衛艦「いずも」改修や「対外有償軍事援助(FMS)」によるアメリカいいなりの武器購入で、アメリカとともに「戦争する国」づくりをひた走るものです。

 

(2) 国の責任で35人学級を実現することに背を向ける「教職員定数改善」

 

① 文部科学省の一般会計は5兆3060億円(2019年度比2億円減)、文教関係予算は4兆303億円(同30億円増)となり、父母・保護者、国民の願いである35人学級の前進や、教職員の長時間過密労働解消のための抜本的な教職員定数増には背を向け、安倍「教育再生」政策を強引にすすめるための予算となっています。

 

② 教職員定数については、

小学校英語専科指導の充実」として3201人の加配措置がありますが、

そのうち小学校英語専科指導加配1000人

および統廃合・小規模校支援加配201人を除く

2000人はまだ結論の出ていない小学校5~6年生への教科担任制導入を「見切り発車」するためのものです。

新たな施策でありながら、現行の指導方法工夫改善加配の「振替」であり、

実際の定数改善は1726人に止められています。

一方で教職員定数の自然減3925人を見込み、

差し引き2199人の定数減となっています。

 

文科予算案で「学校における働き方改革」として位置づけられている教職員定数改善にもかかわらず、教職員の長時間過密労働を解消するために教職員を増やすのではなく、2199人もの定数減を行うという、まったく逆行した施策となっています。

 

(3) 財界の求める「グローバル人材育成」のため、公教育を破壊する教育予算

① 12月13日の経済財政諮問会議で、安倍首相は「パソコンが1人当たり1台となることが当然だということを、国家意思として明確に示すことが重要」と意欲を示しました。同日、「GIGAスクール構想の実現(2318億円)」を含む2019年度補正予算案が閣議決定されました。これを受けて、12月19日、文科省は「GIGAスクール実現推進本部」を設置し、「児童生徒1人1台コンピュータを実現」「高速大容量の通信ネットワーク」などによる政策パッケージを発表しました。

 

  2020年度政府予算案では「『誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び』の実現に向けて、学校現場と企業等との協議により・・・先端技術の導入・活用について実証を行う」などに約2億6千万円計上されています。

こうした予算は「教育の市場化」に拍車をかけ、すべての子どもたちにゆきとどいた教育を保障するものとはまったく逆のもので、公教育を破壊するものです。

② 障害児教育では、障害児学校の教室不足解消を促進するため、「廃校や余裕教室等の既存施設の有効活用」として、改修事業の算定割合を1/3から1/2に引き上げるとあります。これは父母・保護者や教職員のこの間の運動を反映したものといえますが、根本的な解決とはいえません。

 

③ 「高大接続改革の推進」については、大学入学共通テストの英語民間検定利用「延期」および記述式問題導入「見送り」により、概算要求段階より大幅に予算が削減されました。しかし、「新学習指導要領に対応した試験問題」や「CBT方式の検討」「マークシート式問題について、思考力・判断力・表現力を一層重視した作問の見直し」などに14億円計上しています。このような「手直し」ではなく、大学入試を変えることで高校教育を「改革」しようとする「高大接続改革」そのものを抜本的に見直し、すべての高校生にゆきとどいた教育を保障するとともに、公平公正な大学入試が行われるようにすべきです。

 

(4) 今求められる“権利としての教育無償化”をすすめる予算の実現を

① 「高校生等への修学支援」については、年収590万円未満世帯の生徒を対象に支給上限額を39万6千円まで引き上げる「私立高校授業料実質無償化」予算が計上されました。全国私教連・全教や保護者・高校生の「私学も無償に」のとりくみの成果として歓迎すべきものです。

一方で、「高等学校等就学支援金」はまったく「見直し」がおこなわれず放置されたままです。

また、「高校生等奨学給付金」の第1子給付額や学び直し支援、専攻科等生徒への支援(新設)などが増額されたことは、貧困と格差が広がる中、低所得世帯への支援拡充として一定評価されます。

 

② 「大学等における修学の支援に関する法律」にもとづき「高等教育の修学支援」が予算計上されたことは歓迎すべきことですが、

いま国立大学で授業料減免対象となっている中所得世帯の学生約1万9千人が対象外となることが明らかになりました。学生や大学関係者等の批判を受け、現在減免を受けている学生は卒業まで支援が受けられるよう急遽変更され予算計上されましたが、来年度の新入生は対象となっていません。こうした問題に対し、萩生田文科大臣は「制度の端境期なので、ぜひご理解を」などと無責任な発言をしています。

 

  国は責任をもって教育予算を大幅に増額し、消費税増税頼みの「支援」ではなく、学びたいすべての大学生等が条件なく受けられる高等教育無償化を実現することが求められます。

日本政府は2018年5月末までに「無償教育の具体的行動計画」について国連に報告するよう義務付けられていましたが、期限を過ぎても政府報告書は作成されていません。無償教育を漸進的に導入するとした国際公約を守るため、教育予算の大幅な増額へと、予算の抜本的な組みかえが必要です。

 

(5) 憲法子どもの権利条約にもとづき、学ぶ喜びと希望を育む教育予算への転換を

 全教は、アメリカとともに「戦争する国」づくりのための軍拡予算や財界の求める「グローバル人材育成」のための予算を大幅に削減し、

国の責任による35人以下学級の前進をはじめ、

教職員の長時間過密労働解消のための教職員定数増、

給付奨学金制度拡充、

公私ともに学費の無償化をすすめるなど、

子どもが安心して学べる教育予算への抜本的な転換を求め、父母・保護者や地域住民と力を合わせて奮闘する決意です。

 

                           以 上