【全教談話】アメリカとともに「戦争する国」づくりのための軍拡予算や財界の求める「グローバル人材育成」の予算から、憲法と子どもの権利条約にもとづき、子どもが安心して学べる教育予算への抜本的な転換を

〜 2019 年度文部科学省概算要求について〜

2018 年9 月5 日
全日本教職員組合(全教)
書記長小畑雅子

1、大型開発で大企業に奉仕し、アメリカとともに「戦争する国」づくりをひた走る軍拡予算


  財務省は8月31 日、2019年度一般会計予算の概算要求を締め切りました。7月に示された概算要求基準で歳出上限の設定を6年連続で見送ったため、要求総額は過去最大の102 兆円台後半になる見通しです。


  防衛省の概算要求が5兆2986億円と過去最大になり、安倍政権の大軍拡路線がいっそう鮮明になっています。北東アジア情勢の変化もあり、その必要性が疑問視される地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」については、初年度分の支払いに2352億円計上しているものの2020年度以降も負担が続き、総額は見通しが立っていません。


  さらに、例年2000億円程度支出している米軍再編費用の額は明示せず「事項要求」としているため、防衛予算はさらに膨らむことが確実です。その一方で、復興庁の概算要求が発足以来最低水準となり、東日本大震災・東電福島原発事故からの復旧・復興が不十分な中で強引に幕引きを図ろうとする国の姿勢を表したものとなっています。また、統合型リゾート施設(IR)内につくるカジノ規制を担う「カジノ管理委員会」発足に向けた経費を計上するなど、国民の声を無視した概算要求であることが明らかです。

2、ゆきとどいた教育をもとめる父母・保護者、国民の声に背を向ける概算要求


 文部科学省の概算要求は一般会計で2018年度当初予算比11.8%増の5兆9351億円となっています。父母・保護者、国民の願いである35人学級の推進や、喫緊の課題である教職員の長時間過密労働を解消するための抜本的な教職員定数増に背を向け、安倍政権の掲げる「人生100年時代」「Society5.0」「人づくり革命」などのキーワードを至るところに散りばめ、安倍「教育再生」政策を強引にすすめようとするものとなっています。


 その中で、改訂学習指導要領の押しつけや、学校の混乱を招く安倍「働き方改革」および「チーム学校」関連、「新しい時代に求められる資質・能力を育成」するための英語教育・プログラミング教育・道徳教育等に多くの予算が要求されています。


(1) 国の責任としての35人学級前進を放棄する「教職員定数改善」


 教職員定数については2026年度までの8年間で1万8910人改善するとし、2019年度は2615人を計上しています。「学校における働き方改革」として、小学校専科指導や中学校生徒指導に必要な教員を増やし、管理職の負担軽減のため共同学校事務体制強化や主幹教諭の配置を盛り込みました。2017年度から始まった「通級による指導」や「日本語指導」、「初任者研修」の基礎定数化を含め合計2861人の改善を要求しています。自然減2872人を見込み、差し引き11人の定数減とした上で、「国民に追加的な財政負担を求めないよう最大限務める」とわざわざ記述するなど、財務省の定数削減路線の枠内での要求にとどまるもので、きわめて不十分なものです。


  障害児教育については、「通級による指導」の基礎定数化(348人)があるものの、障害児学校の過大・過密に対して「教室不足解消の補助」のみで、根本的な解決を図る予算要求とはなっていません。


 35人学級についての言及が一切なく、国民的願いに背を向け、国の責任を放棄するものであると断じざるを得ません。また、教職員定数改善について、今年度、全教が調査・発表し、マスコミも大きく取り上げた「教育に穴があく」(教職員未配置)問題を解決するための施策・予算要求がまったくありません。学校に必要な教職員は正規で配置することが基本であり、都道府県が計画性を持って正規採用増をおこなうことができるよう、標準法の改正など、国が責任をもって教職員定数改善をすすめるべきです。

(2) 財界の求める「グローバル人材育成」のため、小学校から大学までの公教育を総動員する教育予算


・  文科省の機構改革で、全国一斉学力テストや教員養成・採用・研修を一体的に扱う総合教育政策局がつくられました。概算要求では、「教育における客観的根拠に基づく政策立案(EBPM)」をすすめる上で、全国一斉学力テストを重視し、2019年度に小6、中3で国語、算数・数学、英語(中学校)の悉皆調査をおこなうための予算を要求しています。今年度おこなわれた中学校英語の実証検証では機材の不具合や調査の環境不備など多くの問題が出たにもかかわらず、見切り発車的に導入しようとするのは子どもたちにも学校にも不安を広げるもので、許されるものではありません。


・  教育の「質」を向上すると称し、教員養成・採用・研修の一体的改革を推進し、教員免許管理システムの機能強化を図るなど、総合教育政策局を教職員の一元的管理をおこなう組織として確立しようとしています。学校の実態を無視した施策の押しつけの危険性があるコミュニティスクールなど、教職員の多忙化にいっそう拍車をかけ、学校教育への権力的な介入などが懸念される施策に予算を増額要求している点も見過ごせません。


・  幼・小・中・高の学習指導要領が改訂され、「教員の資質・能力向上」、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」による学習・指導方法改善、「カリキュラム・マネジメント」推進などに多くの予算を当て、その徹底を図ろうとしています。
また、特別支援学校改訂学習指導要領の方向性を踏まえた学習・指導方法の改善・充実や、小・中・高を通じた英語教育強化や道徳教育の充実、小学校プログラミング教育を重視する情報活用能力の育成など、政府が求める「新しい時代に求められる資質・能力の育成」にかかる予算が昨年度より増額要求されています。


・  グローバル化、情報化の進展や生産年齢人口急減などの社会構造の急激な変化に対応するため、「学力の3要素」育成・評価が必要であり、「AI時代に対応した人材育成」をすすめるため「高大接続改革の推進」をおこなうとして、「高等学校教育改革」「大学入学者選抜改革」「大学教育改革」についての予算が増額要求されています。

(3) 必要とするすべての高校生・青年に給付奨学金を実現するための予算こそ求められている


・  「高校無償化」3年目の見直しを検討するための「高校生等への修学支援に関する協力者会議」が中間まとめを出すことなく2017年12月で休止したことも影響して、高等学校等就学支援金にかかる予算要求は2018年度と同じ水準に止められました。


 一方、高校生等奨学給付金については、給付額(一子単価)が公立・私立ともに増額され、貧困と格差が広がる中、低所得世帯への支援拡充は一定評価されるものです。


・  大学等の給付型奨学金については、2万人追加し給付人員4万1400人とされ、2018年度に引き続き、無利子奨学金希望者全員への貸与などが予算要求されています。給付型が本格実施され2年続けて予算要求されたことは前進ですが、人数・支給額ともに十分なものとはいえません。また、消費税増税を前提とした「新しい経済政策パッケージ」に位置付けられた大学授業料減免措置拡大と学生生活を支える給付奨学金などとの関連が不明で、奨学金政策が定まっていない点がきわめて問題です。必要とするすべての高校生・青年に給付制奨学金が実現されるよういっそうの拡充がもとめられます。


・  私立高等学校等経常費助成費等補助については2018年度と同額以上の予算が要求されています。公立より遅れている私立学校施設の耐震化、非構造部材の落下防止対策やブロック塀の安全対策等に大幅な予算増、国の補助期間の延長を求めています。保護者・生徒・教職員の願いである公私間格差の是正、安定的な経営を支える公的助成など、公教育として国が私学を支える予算を拡充することが重要です。

(4) 安倍「教育再生」をすすめる「働き方改革」「チーム学校」ではなく、教職員がいきいきと働ける学校と教育を


 「教職員の業務負担軽減」については、少人数学級実現や教職員定数改善などの根本的な解決を図るのではなく、サポートスタッフ配置増によってすすめようとしています。そのために、退職教職員や教員志望の学生、卒業生の保護者、元教職員、行政・企業事務経験者などを「活用」するとしています。配置が拡充されるスクール・カウンセラーやスクール・ソーシャル・ワーカー、部活動指導員などを含め、低額な賃金と待遇の不安から十分な人員確保が可能か、多くの懸念が消えません。


  こうした一連のとりくみは学校そのもののあり方を大きく変質させる危険性があり、安倍「教育再生」に特化した「業務改善」はますます教職員と子どもたちを苦しめるものとなります。

3、憲法子どもの権利条約にもとづき、学ぶ喜びと希望を育む教育予算への転換を


 日本政府は2018年5月末までに「無償教育の具体的行動計画」について国連に報告するよう義務付けられていました。期限を過ぎてようやく政府報告書をつくる動きを見せていますが、無償教育を漸進的に導入するとした国際公約を守るため、教育予算の大幅増で国民生活最優先の予算へと抜本的に組みかえることが必要です。



 全教は、アメリカとともに「戦争する国」づくりのための軍拡予算や財界の求める「グローバル人材育成」のための予算を大幅に削減し、国の責任による35人以下学級の前進、給付制奨学金創設、公私ともに学費の無償化などをすすめるなど、子どもが安心して学べる教育予算への抜本的な転換を求め、父母・地域住民とともに、教育全国署名運動や「地方議会での意見書採択のとりくみ」を中心に、年末の政府予算編成に向けて奮闘する決意です。


        以上