【全教談話】        

2019年度政府予算案の閣議決定にあたって

大軍拡と財界の求める「グローバル人材」育成のための予算から、

憲法子どもの権利条約にもとづき、子どもたちが安心して学べる教育予算への抜本的な転換を

2018年12月26日
全日本教職員組合(全教)
書記長 小畑 雅子


1、アメリカとともに「戦争する国」づくりにひた走る大軍拡予算


 2018年12月21日、政府は7年連続で過去最大となる2019年度政府予算案を閣議決定しました。2019年10月に予定される消費税増税の対策に約2兆円計上したため、当初予算として初めて100兆円を超え、総額101兆4564億円(前年度当初比3兆7437億円増)となりました。麻生財務大臣は「経済再生と財政健全化の両立を図れた」と胸を張りますが、国の資産を食いつぶして税外収入を増やし新規国債発行額を抑える“見せかけの財政健全化”に過ぎません。


 予算案の最大の特徴は膨らみ続ける防衛予算と専守防衛の枠に収まらない使途です。総額で前年度当初比663億円増の5兆2574億円と5年連続で過去最大を更新し、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」2基導入をはじめ、「いずも」型護衛艦の「空母化」、最新鋭ステルス戦闘機「F35A」、長距離巡航ミサイルなど、過剰な防衛力と必要のない攻撃力を保持しようとするものです。これは、予算案と同時に閣議決定した過去最大の27兆4700億円となる「中期防衛力整備計画」(2019〜2023年度)を反映したものです。その上、「アメリカの言い値」で受け入れる有償軍事援助(FMS)は、対前年度比2911億円増の7013億円で、防衛予算膨張の要因となっています。


 また、防災・減災など「国土強靭化」対策として前年比15.5%の大幅増となる公共事業関係費や、「Society5.0に向けた人材育成」、TPP対策関連費用など、安倍政権が掲げる「成長戦略」に沿ったものには予算をつけ、教育や社会保障、医療など生活関連予算は削減・抑制するもので、断じて容認できないものです。


2、ゆきとどいた教育をもとめる父母・保護者、国民の声に背を向ける文教予算


 文部科学関係予算は、一般会計で前年度当初予算比2349億円増の5兆5287億円となっています。そのうち、文教関係予算は4兆2348億円(同2093億円増)です。しかし、「骨太の方針 2018」の「消費税率引上げに伴う需要変動に対して…別途、臨時・特別の措置を2019・2020年度当初予算において、講ずる」との方針に沿った「臨時・特別の措置」が文科予算で2084億円、文教予算で1974億円計上されているため、それを除けば2018年度とほぼ同水準に止められました。


 父母・保護者、国民の願いである35人学級の推進や、喫緊の課題である教職員の長時間過密労働を解消するための抜本的な教職員定数増に背を向け、安倍政権の掲げる「人生100年時代」「Society5.0」「人づくり革命」「生産性革命」などのキーワードを至るところに散りばめ、政権の意に沿った「教育改革」を子どもと教職員に強制するものとなっています。


(1) 国の責任による35人学級前進と教職員長時間過密労働解消のための教職員定数改善に背を向ける予算


1) 義務教育費国庫負担金1兆5200億円(前年比27億円減)が計上され、小学校専科(英語)指導1000人をはじめ、中学校生徒指導50人、学校運営体制強化60人、通級による指導や日本語指導等の基礎定数化246人、貧困等に起因する学力課題の解消50人、養護教諭栄養教諭等20人、統廃合・小規模校支援30人の合計1456人の定数改善をおこなうとしています。自然減等を4326人と見込んでいるため、2870人の大幅な削減になります。
  その上、小学校英語指導の加配については、教員の新規採用にあたって「一定以上の英語力を有する者の割合が50%以上」の都道府県等を優先するとしています。国が果たすべきナショナルミニマムの立場を投げ捨て、予算を政策誘導的に利用するものです。


 これでは国の責任で35人学級を前進させることにならず、喫緊の課題である教職員の長時間過密労働の解消にもつながりません。「働き方改革」を標榜しながら、結果的に2870人もの教職員を減らすのは矛盾した施策であり決して許されるものではありません。さらに、部活動手当の「土日3時間程度2700円」への引き下げは、いっそう劣悪な条件下での勤務を強いるものです。


2) 専門スタッフ・外部人材の拡充に135億円(同15億円増)が計上され、スクール・サポート・スタッフ3600人、中学校部活指導員9000人、スクールカウンセラーを全公立小中学校(2万7500校)に、スクールソーシャルワーカーを全中学校区(約1万人)に配置するとしています。これらは、学校教育活動支援やいじめ対策、不登校支援、教員の負担軽減など、様々な目的で配置されますが、いずれも細切れで必要なときに必ず対応できるとは限りません。また、賃金・処遇なども不十分で人を集められるかどうかも不透明です。正規の教職員を配置することが求められています。


3) 「学校現場における業務の適正化」については、「教員の長時間勤務を見直すことで、教員自らが意欲と能力を最大限発揮できる環境を整備」するとしながら「業務の見直し」「意識改革のための研修」「業務改善アドバイザー派遣」などを並べるだけです。教職員の長時間過密労働は単なる業務の見直しで解消できるものではありません。まして、教職員の「意識改革」などで片付ける問題ではありません。業務量を減らすと同時に、35人学級や教職員定数増など教育条件整備をすすめることが不可欠です。


4) 「切れ目ない支援体制構築に向けた特別支援教育の充実」では、医療的ケアのための看護師増員や教科書デジタルデータを活用した教科書・教材普及促進、高校段階の入院生徒に対する教育保障体制整備等の予算措置がおこなわれる一方で、改訂学習指導要領等の「趣旨徹底」による「学習・指導方法の改善・充実」を押しつける予算が強化されています。父母・保護者や教職員が求め続けている特別支援学校の設置基準策定や特別支援学級の学級編制標準引き下げに関する言及はなく、「特別支援学校の教室不足解消のための補助」の記述のみで前進面が見られません。


(2) 財界が求める「グローバル人材」育成のため、小学校から大学までの公教育を総動員する教育予算


1) 「教員の養成・採用・研修の一体的改革」として、教員の管理統制をいっそうすすめる予算が計上されています。また、教員免許失効を防ぐ名目で「教員免許管理システム」機能強化が新規で予算化されました。


2) 「教育における客観的根拠に基づく政策立案(EBPM)」を推進するための調査研究の予算を新規で計上しています。全国一斉学力テストの結果を「客観的根拠」に位置付け、教育政策の根拠にしようとしています。2019年度は小6、中3に国語、算数・数学、英語(中学校)の悉皆調査がおこなわれます。中学校英語では実証研究段階で多くの問題が発生し、文科省が「設置管理者の判断により学校単位で『話すこと』調査を実施しないこととすることができる」との通知を出さざるを得ない状況に陥りました。英語調査が学校現場に混乱を招き、教育活動にゆがみをもたらすものであることを示していると言わざるを得ません。


3) 幼・小・中・高の学習指導要領が改訂され、「社会に開かれた教育課程」実現のため、「教員の資質・能力向上」、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」による学習・指導方法改善、「カリキュラム・マネジメント」推進などに多くの予算をあて、その徹底を図ろうとしています。


 また、小・中・高を通じた英語教育強化や道徳教育の充実、小学校プログラミング教育を重視する情報活用能力の育成など、「新しい時代に求められる資質・能力の育成」にかかる予算が増額されています。


4) 「高大接続改革」については、2019年度から導入する「高校生のための学びの基礎診断」や2020年度から導入する「大学入学共通テスト」の調査研究・準備の予算が計上され、動きが加速されています。しかし、学校現場での十分な検討がおこなわれておらず、拙速な導入は高校生や教職員に混乱と不安を招くばかりです。


5) 「高大接続改革」では、「基礎診断」の作成から採点、分析まで実施の大半が民間事業者に委託され、「共通テスト」でも英語(検定)や採点の一部について同様のことが計画されています。さらに、安倍「教育再生」の核となる「グローバル化に対応した英語教育改革」や「ICT活用の推進」「Society5.0に向けた人材育成」については、民間事業者の参入を積極的にすすめています。経済産業省も教育を「成長戦略」としてとらえ、「新たな学びを可能にするEdTechやSTEAM学習プログラム等の開発・実証を民間教育・学校・産業界等の参画」をすすめる「学びと社会の連携促進事業」の予算を新規に10.6億円計上しています。民間事業者の参入を際限なく許せば、教育が利潤追求の場となり公教育が歪められることになりかねません。国には、すべての子どもたちに等しくゆきとどいた教育を保障する立場で公教育に責任を持つことが求められます。


(3) すべての子どもや高校生、青年に対する権利としての教育無償化が不十分


1) 「高校生等への修学支援」は中間まとめが出されないまま、所得制限が導入された高等学校等就学支援金制度が継続されています。「高校無償化」3年目の見直しの結論を出さなかった文科省の責任は重いものがあります。その背景には、安倍内閣が2兆円規模の「新しい経済政策パッケージ」を閣議決定し、年収590万円未満世帯の私立高校授業料実質無償化を明記したことがあります。しかしながら、2019年度予算には具体的記述がなく、実施については不透明なままとなっています。


 高校生等奨学給付金(奨学のための給付金)については、給付額(一子単価)が公立1900円、私立9500円の増額となっています。貧困と格差が広がる中、低所得世帯への支援拡充は一定評価されるものです。


2) 大学等の給付型奨学金については、2年目となる2019年度に2万人追加し給付人員4万1400人とし、昨年度に引き続き、無利子奨学金希望者全員への貸与などの予算が計上されています。給付型が本格実施されたことは前進ですが、人数・支給額ともに決して十分なものではありません。また、「新しい経済政策パッケージ」に位置付けられた大学授業料減免措置拡大と学生生活を支える給付奨学金などとの関連が不明で、奨学金制度の全体像が示されず、高校生・青年に不安を広げています。


3) 私学助成関係予算では、全国私教連や私学助成をすすめる会のとりくみなどによって、「私立高等学校等経常費助成費等補助」の一般補助(幼児児童生徒一人当たり単価)等が増額されています。


 また、「私立学校施設・設備の整備の推進」では、公立に比べて遅れている学校施設の耐震化、非構造部材の落下防止対策やブロック塀の安全対策等に、「防災・減災、国土強靭化関係予算」(臨時・特別の措置)を使って大幅な予算増としています。
また、「幼児教育の振興」では、2019年10月の消費税増税を前提とする「新しい経済政策パッケージ」に基づく「子ども・子育て支援新制度」(内閣府予算)を含め「幼児教育無償化の実施(幼稚園就学奨励費補助等)」に701億円が計上されています。


 私学助成の予算を増額したことは一定評価できますが、父母・保護者や生徒、教職員の願いである学費等経済的な公私間格差の是正、安定的な経営を支える公的助成など、公教育として国が私学を支えるため、文教予算におけるいっそうの拡充が強く求められます。


3、憲法子どもの権利条約にもとづき、学ぶ喜びと希望を育む教育予算への転換を

 
 以上のように、2019年度文科予算は、30年にわたる全国各地での父母・保護者や地域住民、教職員、高校生などが協力・共同し集めた4億6千万筆に達する教育全国署名に込められたゆきとどいた教育を求める国民の声に背を向け、政権の思惑に教育を利用する予算となっており、断じて容認できるものではありません。


 国の責任で教育条件整備をすすめるための予算を求める声は、地方自治体・議会をはじめ教育委員会、校長会、PTAなどからも上がっています。とりわけ、教職員定数増を求める声は強く大きくなっています。しかし、2019年度予算がこのような国民の声に応えるものでないことは明らかです。


 全教は、アメリカとともに「戦争する国」づくりをすすめる大軍拡予算と財界の求める「グローバル人材」育成のための予算を大幅に削減し、憲法子どもの権利条約にもとづき、国の責任による35人以下学級の前進、給付奨学金の拡充、公私ともに学費の無償化などをすすめ、子どもたちが安心して学べる教育予算への抜本的な転換を求め、父母・保護者や地域住民とともに、「教育全国署名」や「えがお署名」、自治体要請、地方議会での意見書採択など奮闘する決意です。


                          以  上


25日、文科省から発表がありました。
26日の新聞が、「休職の教員5000人」と伝えた資料です。
ぜひ、お休みの間に見ておいてください。
これを変えてほしい!よくしてほしいと、毎年末、思います。
平成29年度公立学校教職員の人事行政状況調査について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinji/1411820.htm