【全教談話】

「戦争する国」および「世界で一番企業が活動しやすい国」づくりのための予算から、

憲法子どもの権利条約にもとづいた、

ゆきとどいた教育をすすめる予算への抜本的な転換を

〜2018年度政府予算案の閣議決定にあたって〜


2018年1月17日
全日本教職員組合(全教)
書記長 小畑 雅子

1、大型開発で大企業に奉仕し、アメリカとともに「戦争する国」づくりをすすめる予算案


 2017年12月22日、政府は6年連続で過去最大となる総額97兆7128億円(前年度当初比0.3%、2581億円増)の2018年度予算案を閣議決定し、17年度一般会計補正予算案とともに通常国会に提出します。大企業優先で庶民の暮らしに冷たい「アベノミクス」を継続し貧困と格差をいっそう拡大するとともに、安倍9条改憲の動きに合わせた大軍拡路線をひた走る予算となっています。
 「平成30年度予算のポイント」の「人づくり革命」では、「保育の受け皿拡大」「保育士処遇改善」「幼児教育無償化」「給付型奨学金の拡充」を掲げています。安倍首相が総選挙で公約した「高等教育無償化」「私立高校実質無償化」などは「2兆円パッケージ」に入れられ、消費税増税を予定する2019年度以降に先送りされ、「看板倒れであることが明らかになりました。さらに、「生産性革命」では、「持続的な賃金上昇とデフレからの脱却につなげるため」としながら、Society5.0を推進する大企業への予算措置や、賃上げや投資、研究開発などをおこなう企業に最大80%の法人税減税を可能とする税制など、予算面でも税制面でも「世界で一番企業が活動しやすい国」づくりのための大企業優遇であることは明らかです。
 また、軍事費は6年連続増額の5兆1911億円(同1.3%、660億円増)で過去最高額となりました。「イージス・アショア」やオスプレイ、ステルス戦闘機、無人偵察機等の導入で軍備増強にひた走っています。さらに、日本が初めて「敵基地攻撃能力」を保有するための長距離巡航ミサイル関連経費など、絶対に容認できない予算案となっています。その上、弾道ミサイル攻撃への対応や「スパイ衛星」開発などに補正予算2345億円を計上し、アメリカとともに「戦争する国」づくりをいっそうすすめるものとなっています。
 国民の生活に密着した医療・介護・年金は改悪し、教育・農林水産・中小企業等の予算も軒並みマイナス予算となっています。その結果、国の一般歳出に占める文教予算の比率は、2012年度7.93%だったものが、第二次安倍政権の発足以降毎年減り続け、18年度には6.87%となってしまいます。

2、ゆきとどいた教育をもとめる父母・保護者、国民の声に背を向ける予算案


 文部科学省予算は5兆3093億円(同0.01%、4億円減)、主要経費のうち文教関係費は4兆405億円(同0.06%、23億円減)と、ともに前年度当初予算を下回っています。35人以下学級推進や教職員定数改善には背を向け、グローバルな競争社会を勝ち抜く一部のエリート人材育成のために公教育を総動員し、子どもたちを競争に駆り立て、管理・統制する安倍「教育再生」をいっそう押し付ける教育予算案となっています。


(1)国の責任としての35人学級前進を放棄する教職員定数改善


 教職員定数については、新学習指導要領の円滑な実施と学校における働き方改革と称して、小学校英語の専科指導教員1000人、中学校のいじめ・不登校等への対応に50人、共同学校事務体制強化に40人、通級による指導や日本語指導などに対応するための基礎定数化に385人、学力課題解消や「チーム学校」整備、統合校・小規模校支援などに120人、合計1595人の定数改善をすすめるとしています。しかし、少子化による自然減3000人、統廃合の進展による定数減1050人、少子化等による加配定数減406人で、合計4456人の定数減をおこない、差し引き2861人の大幅な教職員定数削減がねらわれています。
 喫緊の課題である教職員の長時間過密労働解消には定数増が欠かせないことは中教審等でも議論されています。文科省概算要求でも一定の定数増が求められました。しかし、このように大きな「純減」が示されたことは到底容認できるものではありません。また、国の責任による35人学級の前進、高校や障害児学級・学校の教職員定数改善等については一切触れず、国民の願いに背を向けるものとなっています。特に、2018年度に本格実施される「高校の通級指導」の定数配置について予算が計上されていないことは重大な問題です。


(2)財界の求める「グローバル人材」育成に、小学校から大学まで公教育を総動員する教育予算


ア  新学習指導要領で学校現場を縛りあげる徹底的なとりくみや、改訂をふまえた教育課程を押しつける予算37億9400万円が計上されています。「アクティブ・ラーニング」「カリキュラム・マネジメント」「PDCAサイクル構築」など、幼稚園から高校まで、一貫して安倍「教育再生」徹底がねらわれています。また、特別支援学校改訂学習指導要領を押しつける予算も1億400万円計上されています。

 
イ  小・中・高校を通じた英語教育強化事業8億3700万円を含め「初等中等教育段階におけるグローバルな視点に立って活躍する人材の育成」に201億9200万円が計上されています。特に、「日本人としてのアイデンティティ」や「我が国の伝統・文化」が強調されている点や、民間事業者の「活用」拡大によって公教育の責任を果たそうとしない国の姿勢など、見過ごすことのできない大きな問題があります。

ウ  競争主義に拍車をかけ、正常な学校教育に支障を来している全国一斉学力テストについては、国語、算数・数学、理科の悉皆調査に加え、中学校英語の予備調査をおこない、2019年度に実施するための準備等で52億円が計上されています。英語の導入によって学校現場の混乱や生徒への影響がいっそう大きくなることが懸念され、全国一斉学力テストの中止など抜本的な見直しがもとめられます。

エ  小学校で開始される「特別の教科 道徳」の教科書無償給与、評価や推進体制等研究会実施や「地域の特色を生かした道徳教育」、「親子道徳の日」などに35億2400万円が計上されています。家庭や地域まで総動員し、これまで以上の押し付けが強まる危険性が増大しています。安倍9条改憲を許さないとりくみと合わせて、国による道徳心の強要や愛国心の強制を許さないとりくみが求められます。


オ  「グローバル人材」育成の要でもある「高大接続改革」については、「大学入学共通テスト」の記述問題作問・採点検証等のためのプレテスト、「高校生のための学びの基礎診断」施行調査等に57億9100万円が計上されています。「共通テスト」では英語で民間検定を「活用」し、「基礎診断」では民間事業者に「測定ツール」開発・提供から、評価や教員研修、教育課程づくりにまで関与させるなど、教員の専門性を無視し教育産業に丸投げするものとなっています。拙速な「高大接続改革」ではなく、すべての高校生の学び・成長を保障する高校教育・高大接続・大学教育とするため、国民的な議論と合意形成を図ることが必要です。


(3)権利としての教育無償化を実現する教育予算へ


ア  「高校生等への修学支援」については、高等学校等就学支援金等に3708億3500万円、高校生等奨学給付金については給付額増額で132億7900万円が計上されています。貧困と格差が広がる中、低所得世帯への支援が拡充される点は一定評価するものです。一方、「高校無償化」3年目の見直しについて協力者会議がおこなわれていますが、所得制限撤廃に関する積極的な議論が見られないのは大きな問題です。権利として、すべての高校生等が「高校無償化」となるよう強く求めるものです。

イ  大学等奨学金事業については、2018年度から本格実施となる給付型奨学金について給付人員2万2800人分、無利子奨学金希望者全員への貸与など、1160億9600万円の予算が計上されています。給付型について、本格実施の予算が計上されたことは前進ですが、人数・支給額ともに決して十分なものではありません。必要とするすべての高校生・青年に給付制奨学金が実現されるよういっそうの拡充がもとめられます。

ウ  私立高等学校等経常費助成費等補助については、幼児児童生徒の単価増額や特色あるとりくみ支援などで1033億6400万円が計上されました。また、私立学校施設・設備の整備の推進は、耐震化等の促進や教育・研究装置等の整備に102億4100万円が計上されました。保護者・生徒・教職員の願いである公私間の学費等経済的格差の是正、安定的な経営を支える公的助成など、公教育として国が私学を支える予算を拡充することが重要です。


(4) 安倍「教育再生」をすすめる「働き方改革」「チーム学校」ではなく、教職員がいきいきと働ける学校と教育を


ア 「チーム学校」「働き方改革」の柱である専門スタッフや外部人材の導入については、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの増員に60億5300万円、学力向上を目的とした支援や学習プリント印刷・準備、授業準備・採点業務補助等をおこなう「スタッフ」導入に42億7200万円、公立中学校部活動指導員4500人配置に5億400万円、特別支援教育専門家等配置に13億4000万円が計上されています。 また、「学校現場における業務の適正化」として、教員の業務の明確化や時間管理の徹底、「業務改善アドバイザー」派遣、および、都道府県単位での「統合型校務支援システム」導入など、さらに、給食費の徴収・管理を学校から自治体に移行する予算が計上されました。これら一連の予算配分の中には、これまでの私たちのとりくみの到達であるということができるものもありますが、「教職員の業務負担軽減」を名目に学校そのもののあり方を大きく変質させる危険性をもつものでもあり、警戒が必要です。安倍「教育再生」に特化した「業務改善」はますます教職員と子どもたちを苦しめるものとなります。

イ 「教員の資質能力の向上」として、教員の養成・採用・研修及び教員免許管理などの予算が計上され、とりわけ、教員免許状情報を適正に管理できる教員免許状管理の在り方・システム調査研究が新規に予算計上されるなど、教員の管理統制を強めるものとなっています。


ウ 地教行法が一部改正され、すべての公立学校に学校運営協議会設置の努力義務が課されたとして、「学校運営協議会の設置・拡充に向けた調査研究事業」についても予算計上され、その拡大がねらわれています。

3、憲法子どもの権利条約にもとづき、学ぶ喜びと希望を育む教育予算への転換を


 2012年9月、日本政府は長年留保していた国際人権規約A規約13条2項(b)(c)を批准しました。この結果、政府は2018年5月末までに、「給付奨学金導入」や「高校の入学金と教科書の無償措置」、「学校納付金等の無償措置」などの「無償教育の具体的行動計画」を国連に報告することが義務付けられています。そのため、国は無償教育を漸進的にすすめるとした国際公約を守り、教育予算を大幅に増やし、国民生活最優先の予算へと抜本的に組みかえることがもとめられています。
 全教は、アメリカとともに「戦争する国」づくりのための軍拡予算や財界の求める「グローバル人材育成」のための予算を大幅に削減し、国の責任による35人以下学級の前進、給付制奨学金の抜本的拡充、公私ともに学費の無償化をすすめる、子どもが安心して学べる教育予算への抜本的な転換を求め、教育全国署名運動や自治体要請・懇談等を軸に、父母・地域住民と力を合わせて奮闘する決意です。

                                        以上