【全教談話】

2017年度政府予算案の閣議決定にあたって

2017年1月11日
全日本教職員組合(全教)
書記長 小畑 雅子

1. アメリカや大企業に奉仕し、福祉・教育など国民生活を抑制する予算案
 2016年12月22日、政府は5年連続で過去最大となる総額97兆4547億円(前年度当初比0.8%増)の2017年度予算案を閣議決定しました。16年度の第3次補正予算案とともに通常国会に提出します。
 「アベノミクス」が破綻して税収が伸び悩む中、大企業に対しては研究開発減税の拡充、5年連続の公共事業費増額により「世界で一番企業が活躍しやすい国」づくりを推進します。聖域扱いの軍事費は5年連続増額の5兆1251億円(同1.4%増)の計上となり、過去最高額を3年連続で更新しました。大学などでおこなわれる研究を武器開発に活用する「安全保障技術研究推進制度」を18倍増の110億円とし「軍学共同」を加速します。第3次補正予算への「ミサイル防衛」1706億円の計上とあわせた異常なまでの軍拡予算で「アメリカとともに戦争する国」づくりを推し進めようとしています。その一方、毎年1兆円近い自然増がある社会保障費を、一部の高齢者や現役世代の負担増等により4997億円増に抑制しています。概算要求段階で削られた自然増分をさらに1400億円も削減しました。国民の生活に密着した医療・介護・年金は改悪し、教育・農林水産・中小企業等の予算も軒並みマイナス予算としています。その結果、国の一般歳出に占める文教予算の比率は、2012年度7.9%だったものが、第二次安倍政権の発足以降毎年減り続け、17年度には6.9%となってしまいます。


2. 競争と管理、格差づくりをさらにすすめる、安倍「教育再生」のための予算
(1) 文部科学省の一般会計は5兆3183億円、文教関係予算は4兆428億円と、ともに前年度当初比0.2%減となっています。35人以下学級の推進や教職員定数改善には背を向けて、グローバルな競争社会を勝ち抜く一部のエリート人材育成のために小学校から大学までの公教育を総動員し、多くの子どもたちを競争と管理に駆りたてる安倍「教育再生」をさらに押しすすめる教育予算案となっています。
(2) 教職員定数については、加配措置してきた発達障害等の児童生徒への「通級による指導」や、外国人児童生徒教育の充実等のための定数を基礎定数化したり、小学校専科指導の充実などの新たな加配定数の改善により868人の定数増を計上していますが、少子化や学校統廃合による自然減が4150人あるため、教職員定数は差し引き3282人の削減となります。また、「通級による指導」の基礎定数化に伴う「政策減」として、「特別支援学級から通級指導への移行」による150人の減を見込んでいることも大きな問題です。国民的願いである35人学級の前進については一言も触れておらず、高等学校や障害児学校の定数改善にも背を向けるものであり、容認できるものではありません。
(3) 競争主義に拍車をかけ、正常な学校教育に支障を来している全国学力テストについては、国語、算数・数学の悉皆調査に加え、抽出による中学校英語の予備調査の準備を含め53億円を計上しています。「道徳の教科化」の18年度実施に向け、小学校教科書の無償給与等に5億円増の20億円を投じます。小学校からの英語教育の強化事業、外部試験団体と連携して中学生1.5万人・高校生1万人の英語力調査事業を実施します。
(4) グローバル人材の育成を目的とする高大接続改革に関しては、「高等学校基礎学力テスト(仮称)」の2019年度導入にむけて実現可能性を確認するためのプレテスト実施、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の2020年度実施に向けた準備等に5億増の57億円を計上しています。国立大学の運営費交付金については0.2%増の1兆971億円を確保していますが、人件費など基盤的経費にかかる基幹経費は21億円減少しています。「国立大学法人機能強化促進費」など新たなる再配分ルールの導入等により、大学の3類型化などの財界・政府のねらいに沿った「大学改革」をおしすすめる大学に優先的に再配分するためです。
(5)「特別支援教育関連予算」では、深刻な障害児学校の過大・過密状況を根本的に改善する施策は全くありません。


3. 教育の無償化を前にすすめる教育予算を
(1) 幼稚園・保育所の保育料については、市町村民税非課税世帯の第2子の保護者負担を無償化し、年収360万円未満のひとり親世帯の第1子の負担軽減(年額9万1000円→3万6000円)等をおこないます(第2子以降はすでに無償化)。貧困と格差が拡大するなか、貧困の連鎖を断ちきり権利としての教育を保障するため、就学前から高等教育までの無償化を進める必要があります。高すぎる保育料基準を引き下げ、すべての子どもの保育料を早期に無償とすることが求められます。
(2) 非課税世帯の生徒に支給される「奨学給付金」については、第1子の給付額が増額されます(国公立5万9500円→7万5800円、私立6万7200円→8万4000円)。実質的な給付制奨学金となっていますが、その財源は、年収910万円以上程度の世帯の高校生から徴収した授業料であり、「権利」としての教育が「施し」に変質させられてしまうことは大きな問題です。「高校無償化」の復活と予算を増やした上での給付制奨学金を創設すべきです。
(3) 私立学校等の経常費助成費等に対する補助総額は、前年度当初比で12億9700万円増の1036億4600万円、高校生一人あたり単価で486円(0.9%)増となりました。各学校種の総額においては、中学校(及び中等教育学校前期)で生徒数減を理由に減額となっています。小学校、幼稚園では高校と同様に0.9%増となっています。今回初めて私立小中学校等で学ぶ低所得世帯の授業料負担軽減のため、年収400万円未満の世帯へ年額10万円を支援します(2017〜21年度の実証事業)。
(4) 大学生等への奨学金について、返還不要の「給付型奨学金」制度の18年度導入をはじめて決定しました。住民税非課税世帯のうち1学年2万人に月額2万〜4万円を支給し、児童養護施設出身者には入学金相当額(24万円)を別途支給します。17年度は私立の自宅外生など約2800人に先行実施するとしています。これは、世界でも異常な高学費の保護者負担軽減と教育の機会均等の保障を求めて長年にわたって展開されてきた国民的運動と世論の力によるものであり、国の制度として初めて「給付型奨学金」が導入されることを歓迎したいと思います。しかしながらその対象人員は極めて限定的な数であり、現在の日本学生支援機構奨学金を利用している約130万人の大学生等の圧倒的多数が対象外とされてしまいます。また、住民税非課税世帯や生活保護世帯、児童養護施設などの子どもが1学年15.9万人であることを考えれば、「経済的事情で進学を断念せざるを得ない者を後押しする」という制度にはほど遠いものと言わざるを得ません。さらに、全国約5000校の高校に1人以上を割り振り、学習成績や部活動などの成果などを基準に選ぶとしていますが、経済的困難の度合いが高い生徒ほど不利なものとなる恐れがあります。そして、「毎月の渡し切りの給付とすることを基本」としながら、毎年度学業の状況等を確認した上で給付を確定することとなっており、「適格性」を欠くと判断されれば返還義務が生じることになります。
無利子奨学金については、貸与人員の増員により、貸与基準を満たす希望者全員への貸与を実現して残存適格者を解消するとともに、低所得世帯の生徒の成績要件を実質的に撤廃します。これにより無利子奨学金の貸与者は4.4万人増の51.9万人となりますが、有利子奨学金の貸与者は依然として81.5万人(2.9万人減)も存在することになります。貸与奨学金の即時無利子化と、支給段階から返還を求めない、本物の給付制奨学金を創設・拡充していくことが重要です。


4. すべての子どもや青年の学び・成長する権利を保障する教育予算への抜本的転換を
 OECD諸国の中で最低水準となっているGDP比の公財政教育支出をOECD平均並みに段階的・計画的に引き上げて、すべての子どもや青年の学び・成長する権利を保障することが切実に求められています。
 全教は、国民的願いであり国際的常識でもある、小学校から高校までの35人以下学級の早期実現、「設置基準」策定による障害児学校の大幅増設、公私ともに高等教育までの学費の無償化、給付制奨学金の創設・拡充を可能とする政府予算案への抜本的転換を強く求め奮闘する決意です。
                        以 上