骨太方針に沿うのではなく、子どもたち一人ひとりに沿った教育を 

【全教談話】   

 子どもたち一人ひとりが人間として大切にされる教育の実現に向けた施策を

~「骨太の方針2019」の閣議決定にあたって~

2019年7月3日

全日本教職員組合(全教)

書記長 檀原毅也

6月21日、政府は「経済財政運営の改革の基本方針2019 」(「骨太方針2019」)と「成長戦略実行計画」を閣議決定しました。

 

1.「骨太方針2019」は、「現下の日本経済」の冒頭、第2次安倍内閣発足当時の経済低迷やデフレによる閉塞感、先行き不透明感の強まる状況を「アベノミクス」によって打開することに成功したと胸を張ります。「長期にわたる回復を持続」し「GDP は名目・実質ともに過去最大規模」、「雇用・所得環境も大きく改善」し、「過去最高水準の企業収益」の中で最低賃金を3年連続で引き上げ、中小企業含め賃上げを実現し、「有効求人倍率は全都道府県で1倍を超える」などと「実績」を並べ立てて自画自賛に終始しています。

 

しかし、実態は、6月の全国企業短期経済観測調査日銀短観)が2四半期(6か月)連続で悪化し、実質消費支出も実質賃金も1年前に比べマイナスとなっています。2014年の消費税増税後消費の低迷が続き、個人消費も減少しています。「アベノミクス」は経済再生どころか、貧困と格差を拡大し、国民を苦しめるものであることがいっそう明らかになっています。

 

 

2.教育については「Society5.0時代にふさわしい仕組みづくり」の「人づくり革命」で、「Society5.0時代のニーズに合わせて、従来の型にはまった教育システムを複線型に転換するなど、多様性を追求できる仕組みに改革する」と、Society5.0を口実に公教育の平等さや公平さを徹底的に壊し、国・財界が求める「グローバル人材」育成に特化した教育に変質させるねらいを鮮明にしています。

 

 「初等中等教育改革等」では「義務教育における基礎・基本の習得の上に、教育システムを複線型に転換」すると、教育そのものの構造「改革」を企図しています。国民的合意がない中で、教育の複線化など「エリート人材」育成や経済効率最優先の政策を求める財界・大企業の意に沿ったものと考えられます。「児童・生徒に個別最適化された教育を効果的・効率的に実現」とありますが、一部の「エリート人材」育成には金も人もかけるがそれ以外には「個別最適化」という教育の切り売りといえる「教材」の提供等で初等中等教育段階に分断と差別を持ち込むものです。これは、「その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」(憲法26条)としたすべての子どもたちに学習権を保障する立場から大きく逸脱するもので、とても容認できるものではありません。

 

 さらに、教育再生実行会議「第十一次提言」と軌を一にして、「高等学校の生徒数の約7割を占める普通科においても、制度改正も含めた類型化を図る」方向を示し、子どもたちや父母・保護者の願いとかけ離れた高校教育「改革」を押し付けようとしています。このような「改革」はすべての子どもたちに学ぶ権利を保障するものではなく、教育を経済政策としてすすめようとするもので絶対に認めることはできません。直ちに見直し、撤回すべきものです。

 

「個別最適化」を支えるICTの活用は情報産業界の要請にかなうものでもあり、「柴山・学びのプラン」を引き写し「希望する全ての小・中・高等学校等で遠隔教育を活用」することが強調されています。ICT環境整備に地域間格差があり、個人情報保護などの十分な対応ができないまま「教育データのデジタル化・標準化」をすすめることは大変危険です。民間事業者の公教育への参入が激しさを増す中、子どもたちのビッグデータが民間に利用される事態を招くことは明らかで、ICT活用については慎重な検討が求められます。

 

 「教育課程、教員養成・免許・採用・研修制度等について総合的な検討を行い、2020 年度中に結論を得る」と具体的な日程を示していることにも注視が必要です。また、学校における働き方改革として「1年単位の変形労働時間制の導入」をわざわざ書き込み、学校・教職員に押し付けようとしていることが明らかにされました。

 

 教育無償化については、全国私教連や全国の私学助成をすすめる会などの運動の成果として、年収590万円未満世帯を対象とした私立高等学校授業料の「実質」無償化が実現することや、国民的要求である「幼児教育・保育等の無償化等」「高等教育無償化」が始まることなど一定の前進面がみられます。しかし、「安定的な財源を確保」としながら具体性が示されていない点や10月からの消費税増税を前提とする点、対象を非課税世帯に限定するなど権利としての教育無償化とはいえない点など多くの問題をもっています。国は、国際人権A規約13条2項の「無償教育の漸進的導入」を国際的に公約していることをふまえ、すべての教育段階での権利としての教育無償化にとりくむことこそ重要です。

 

3.「成長戦略2019」では、「Society5.0時代に向けた人材育成」の中で「大学等における人材育成」として「飛び入学」「大学入学共通テストに『情報Ⅰ』」「産学連携」などがあげられ、「初等中等教育段階における人材育成」として「ICT環境整備」「BYOD等の活用」「クラウド化」「SINET」「小学校のプログラミング教育」「EdTech」「学習ログ等を蓄積した学びのポートフォリオ」「STEAM教育」などを羅列しています。いずれも経済界・産業界の意向を強く反映し、首相官邸主導で経済政策の面から「教育改革」をすすめようとしていることは明らかです。さらに、「改革」の旗振り役を利潤追求第一の民間事業者を管轄する経済産業省としている点も問題です。教育を経済に従属させるようなやり方を許し、公教育を財界・大企業の思いのままに変えていくことは、子どもたちや父母・保護者のゆきとどいた教育実現を求める声を無視し、いっそう競争と管理を強化することにつながります。文科省には、教育の自主性・独立性を自覚し、子どもたちや父母・保護者の立場に立った教育政策の実現が求められています。

 

4.全教は、「骨太方針」に沿った教育政策ではなく、憲法子どもの権利条約にもとづき子どもたちの学ぶ権利を保障し、子どもたち一人ひとりを人間として大切にする教育・学校づくりをすすめる教育政策を強く求めるものです。そのために、概算要求期のとりくみと結んで、父母・国民の願いであるゆきとどいた教育の実現に向けた全国的な運動を大きく広げる決意です。

                                                                                          以  上

 

骨太の方針2019

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2019/summary_ja.pdf