【全教談話】

第3期教育振興基本計画(答申)について

〜国やグローバル企業が求める「人材」づくり政策でなく、

父母・保護者、教職員の願い踏まえた教育条件整備計画の策定を〜


2018年3月14日
全日本教職員組合(全教)
書記長 小畑 雅子


1、中央教育審議会(以下、中教審)は、3月8日、「第3期教育振興基本計画について」(答申)(以下、「答申」)を決定し、文部科学大臣に提出しました。
  全教は、教育振興基本計画そのものが時の政府による教育介入をすすめる意図をもって改悪教育基本法第17条に位置付けられたものであることから、第1期教育振興基本計画策定時から反対の立場を明確にしてきました。
 また、「第3期教育振興基本計画の策定に向けたこれまでの審議経過について」(以下「審議経過」)に関して公聴会に参加し、第3期計画策定にあたってもその立場を表明した上で、計画の策定を行うならば、(1)政府は教育に対し介入しないことを原則とすべきであること、(2)ゆきとどいた教育をすすめるため、子どもと学校の実態をふまえた教育条件整備に限定すること、の2点を求める意見表明を行いました。


2、国は教育の内容に対し介入しないことが原則です。その観点から「答申」は重大な問題点を持っています。


(1)「答申」は、「第4次産業革命」「超スマート社会」等の到来を予想し、「2030年以降の社会像の展望を踏まえた個人と社会の目指すべき姿と教育の役割」として、「新たな価値を創造する人材の育成」などを示しています。子どもの貧困・格差の問題や自己肯定感が低いことなどを指摘しながらも、全体として国や一部グローバル企業が求める「人材」づくりの観点から教育をすすめるものとなっています。改訂学習指導要領により、国が定めた「育成すべき資質・能力」や「愛国心」を押しつけるなど、国と財界への奉仕者を育成することをめざす教育をすすめることにつながるものです。教育のあり方は、子どもや地域・学校の実態を深くリアルにとらえ、そこから検討されるべきです。


(2)「答申」は、平成30年度から5年間における「目標の進捗状況を把握するための測定指標及び参考指標」(以下、「指標」)を示しています。国が「指標」を示すことは、国家や一部グローバル企業の求める「人材」づくりをすすめる政策誘導のための道具と言わざるを得ません。


○ 「指標」について、「その数値の達成が自己目的化され、本来の目指すべき状況とのかい離や望まざる結果を招かないよう、十分に留意することが必要」としています。しかし、結果として各地方自治体や各学校では「指標」が自己目的化し、一人歩きしています。例えば「全国学テ」は、その県別平均正答率の各県順位が示され、「県の教育目標に『全国○○位をめざす』などを入れる」「3月から過去問題のドリル指導がくりかえされている」などの実態が全国に蔓延しています。福井県議会において「日本一であり続けることが目的化し、本来の公教育のあるべき姿が見失われてきたのではないか検証する必要がある」などとした「教育行政の根本的見直しを求める意見書」が可決されるなど、その矛盾がひろがっています。「エビデンス(客観的な根拠)ベース」による「指標」の設定と、それを基にしたPDCAサイクルをまわすことにより、いっそう教育の歪みにつながる危険性があります。
・ 福井県議会意見書 → http://gikai.pref.fukui.jp/common/giketsu/myweb.exe/result%7C3%7Cguest05%7C%7C9352%7C0%7C0%7C223


○ 「自分にはよいところがあると思う児童生徒の割合の改善」「進路について将来の仕事に関することを意識する高校生の割合」等の「指標」は内面や意識に関わるもので、機械的に数値化し測定できるものでなく、国が子どもたちの心の中まで踏み込み、管理することにつながるといわざるを得ません。また、「地域において子育ての悩みや不安を相談できる人がいる保護者の割合の改善」「家の人と学校での出来事について話をしている児童・生徒の割合の改善」等の「指標」は、国が地域・家庭のあり方に特定の価値観を「指標」として持ち込み、押しつけるものです。


○ 日本の教育制度は国連子どもの権利委員会から「過度に競争的」であると再三勧告されてきました。しかし、「答申」は、現状を改善するどころか「これまでの取組の成果」に「我が国が引き続き世界トップレベルであること」をあげ、「指標」に「各種国際調査を通じて世界トップレベルを維持」をあげています。「全国学テ」等による競争の教育が、子どもたちの生活と学びの個別化・分断化をすすめ、排他的な競争意識や自他への不信感を拡大していることについての分析や反省もなく、さらに競争主義的な「指標」を掲げることは大きな問題です。


3.国がおこなうべきは、子どもや父母・保護者、教職員の願いにこたえ、すべての子どもたちの成長を保障する教育条件を整備することです。


○ 「答申」は、「審議経過」に「今後の教育政策の遂行に当たって特に留意すべき視点」を追記し、「教育投資の在り方」を示しました。教育投資に関する公財政支出総額について OECD諸国との対比データを示し、第2期と同様に「OECD諸国など諸外国における公財政支出など教育投資の状況を参考とし、真に必要な教育投資を確保していくことが必要」としています。ただちにOECD諸国平均並みの公財政支出を行うことを示すべきです。


○ 「答申」は教育の無償化について「政策パッケージを着実に実施」としています。しかし安倍首相が総選挙で公約した「高等教育無償化」「私立高校実質無償化」などは「2兆円パッケージ」に入れられ、消費税増税を予定する2019年度以降に先送りされ、「看板倒れ」となりました。父母・保護者、子どもたちの切実な願いである、教育の各段階での無償化や教育費の負担軽減について、すべての子どもたちを対象に継続的に推進することが重要です。教育の無償化を、国の責任において推進することを明確に示すべきです。


○ 「答申」は「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導体制の整備等」をかかげています。しかし、そこで教職員定数改善や35人以下学級の実施について触れていないことは、多くの父母・保護者、国民の切実な願いに背を向ける重大な問題です。


○ 教職員の長時間過密労働の解消は、「看過できない」課題であるにもかかわらず、「答申」では、「指標」に「1週間当たりの学内総勤務時間の短縮」等を示し、「指導・事務体制の効果的な強化・充実、専門スタッフとの連携・分担体制構築等を通じて、教師が本来行うべき教育に関する業務に集中できる持続可能な学校指導体制を整備」とするのみで根本的な改善の方向を示していません。競争主義的な教育政策を改め、教職員定数改善を直ちに行い、教職員の長時間過密労働解消を行うことが求められます。

3月25日 日曜日夕方6時の静岡県庁と桜


○ 地方教育行政においても、子どもや学校・地域の実態を踏まえ、すべての子どもたちの成長を保障する教育条件を自主的に整備することが求められます。しかし、「答申」は「国全体の目標も参考にしつつ、各地域や教育実践の現場において、それぞれの実情も踏まえながら各関係者が自主的に設定することが期待される」として、各地方自治体や学校現場に「指標」策定を押しつけています。


4.今、日本の教育に求められるのは、競争主義的な教育政策を改め、国の責任による35人以下学級の実施、教職員定数の抜本的改善、給付制奨学金制度の拡充、権利としての教育の無償化、障害児学校学校設置基準の策定などの教育条件整備です。全教は、すべての子どもたちの成長を保障するゆきとどいた教育をすすめる立場から、「答申」を抜本的に見直し、国家や一部グローバル企業が求める「人材」づくりをすすめる政策を転換し、父母・保護者、教職員の願いを踏まえた教育条件整備計画の策定を求めるものです。


                                       以上


駿府城公園の夜桜