競争やめて学力世界一

 OECD経済協力開発機構)は最近、テストを中心とした評価にかわる形成的評価の意義を説く報告書を出しました。形成的評価とは、学習の達成度を、テストでの判定よりも、教師と生徒の相互交流の積み重ねを重視して評価する方法です。世界的な学カテストの流行に一石を投じる報告です。
 「形成的評価は生徒の達成度を向上させる最も効果的な戦略の一つ」であるが、「その実践は努力を要するばかりでなく、教師が自分自身の役割や生徒の役割に対する見方を変える必要がある」と書いています。
 報告書はカナダ、デンマークなど八カ国のすすんだ教育実践を紹介していますが、なかでもフィンランドを「競争と比較をやめて発達を強調」と高く評価しています。
 平等と公正貫くフィンランドは2003年のOECD国際学力調査で総合1位になり、学力世界一として海外の教育関係者の視察が相次いでいます。
 
 フィンランド科学アカデミー外国会員でもある中嶋博・早稲田大学名誉教授は「平等と公正を貫くのがフィンランドの教育政策です。テストも競争させるためではなく、遅れた子を引き上げるためのものなんです」と言います。
 フィンランドの学力テストは、5-10%の生徒が受けるもので地域・学校の成績は公表されません。しかし成績が落ち込んでいる学校に対しては、財政的一人的支援が手厚く行われます。とくに学校の要講を受けて地方教育委員会が派遺する特別支援教師の存在が重要です。彼らは学級担任の教師よりもさらに高い専門性を身につけており、学習の選れた子のサポートにあたります。
 「理解の遅い子が6-7%いることを前提に、特別支援教師を養成しているんです。日本でもすぐ実施してほしい対策です」と中嶋氏は話します。

 ヘルシンキ大学のマッテノ・メリ教員養成学科長は、学力向上をめざした同国の研究の結論は「自分でなぜ勉強するのかを理解しているとよく身につくということだ」と話しています(『フィンランドに学ぶ教育と学力』)。
 久冨善之・一橋大教授も同様の主張をします。
「今の子どもを競争で勉強させるという考えには無理があひます。断片的な知識の学習ではなく、学校の勉強を子どもたちにとって意味が実感できるものに作り変えることが必要です」「競争によって勉強させる仕組みは90年代に決定的にくずれました。終身雇用制がゆらぎ企業のリストラもすすむなど、学校でいい点数さえ取れば将来が約束されるという幻想がこわれたのが大きな原因です」

 教育評論家の尾木直樹さんも「暗記型の詰め込みの結果を、学カとは呼ばない」として、「自分と社会の未来を切り開く、市民として生きていく力が学力です。授業も『できる』ではなく、『わかる』ことが大事です。学力テストなど茶番です」と語ります。
 いま必要なのは学ぶ喜びを取り戻すこと。対象学年全員がうける学カテストはそれに逆行するというのが、海外でも日本でも教師・教育学者の共通認識です。