文科省「標準的な職務の明確化」通知の押しつけに反対する理由

2020年9月18日

【全教談話】教職員の長時間過密労働解消のための実効ある施策を求める

 

文科省「標準的な職務の明確化」通知の押しつけに反対する~

                             全日本教職員組合

        書記長 檀原毅也

 

 文科省は、7月17日、公立学校に「1年単位の変形労働時間制」を導入するための「省令」「指針」等の通知に合わせ、「教諭等の標準的な職務の明確化に係る学校管理規則参考例の送付について(通知)」及び「事務職員の標準的な職務の明確化に係る学校管理規則参考例の送付について(通知)」(以下、「通知」)を発出し、都道府県・政令市の教育委員会に「学校管理規則」改定などの「対応」を求めました。

 

 これは、2019年1月25日の中教審答申「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」(以下、中教審「答申」)において、「学校・教師が担うべき業務の範囲」を定め「学校管理規則のモデルを周知」する旨求められたことによるものとされています。

 

 中教審「答申」は、これまで学校・教師が担ってきた業務の縮減が必要だとして、

それらを、「基本的には学校以外が担うべき業務」

     「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」

     「教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」の3つに区分しました。

今回の「通知」は、さらに踏み込んだものとなっています。

中教審「答申」では「輪番」で行うことも例示されていた

「児童生徒の休み時間における対応」や

「校内清掃に係る対応」、

中教審「答申」で「多くの教師が顧問を担わざるをえない実態」があるとされていた「部活動に係る対応」について、

「必ずしも教諭等が担う必要のない業務」と明確に位置づけ、

学校管理規則の参考例に掲載していません。

また、「学校徴収金の徴収・管理に関すること」は

「基本的には学校以外が担うべき業務」とし、

「仮に、学校が担わざるを得ない場合であっても、教諭等の業務ではなく事務職員等の業務とする必要がある」として、

「事務職員の標準的な職務」の中に「学校徴収金に関する事務」を明記しています。

 

この「通知」には、以下のように重大な問題があります。

 

第一に、「学校における働き方改革」の一環だとされていますが、むしろそれに逆行するものだということです。

 

この「通知」は、「1年単位の変形労働時間制」導入のための「省令」「指針」と同時に発出されており、

「職務の明確化」は「在校等時間」の「上限指針」と連動したものです。

たとえば「休み時間における対応」など、これまで教育活動の一環として行ってきたものであっても、

規則によって「職務」から外されてしまえば、

「在校等時間」から除算されることが危惧されます。

これでは「虚偽の時間把握」になり、「時短ハラスメント」がますます強まることになりかねません。

 

 また、「必ずしも教諭等が担う必要のない業務」とされたものを、

事務職員をはじめとした他の職種やサポートスタッフ、地域ボランティアなどの「職務」として位置づけようとしていますが、

そのために必要な人員配置や増員の計画は示されていません。

「教育に穴があく」実態や「学校事務の共同実施」、正規職員の非正規化、民間委託などが進行している中で、あらゆる職種の教職員の負担が増大してしまいます。

 

 

 第二に、さまざまな職種の教職員がそれぞれの専門性を活かし、協力・共同して教育活動にあたっている学校の中に、

「規則」によって「職務の明確化」を持ち込むことは、きわめて有害だということです。

 

 学校においては、たとえ実務的に見える業務であっても、その一つひとつが子どもの成長・発達を育む教育活動につながるものであり、すべての職種の教職員が子どもたちとのふれあいを大切にしています。

話し合いによるおおまかな分担はありますが、子どもたちや学校・地域の実情に合わせて、お互いにカバーし合うことが大前提です。

そのような業務を職種によって分断し「規則」で定めることは、

教育活動をすすめる上で欠かせない教職員の協力・共同の関係をこわし、上意下達と管理統制の体制をいっそう強めることになってしまいます。

それでは子どもたちにとって学校が、安心して楽しく過ごせる場ではなくなってしまいます。

 

第三に、「学校管理規則」は教育委員会が定めるものであり、

文科省の「参考例」を押しつけてはならないということです。

また、「職務」は労働条件の根幹にかかわるものであり、

職員組合との交渉事項です。

教育委員会が「学校管理規則」に「職務」を規定するのであれば、

それぞれの地域と学校の実情を踏まえ、

職員組合と交渉し、

合意を得ることが不可欠です。

「通知」に交渉事項であるとの記載がないことも、重大な問題です。

 

 全教は、コロナ禍のもとでこれまでにも増して深刻な実態にある教職員の長時間過密労働を解消するために、

それに逆行する「職務の明確化」を押しつけるのではなく、

教職員定数の抜本的改善と少人数学級の実現、

管理と統制の教育政策の見直しなど、

実効ある施策を求める世論を広げ、引き続き奮闘する決意です。