【全教談話】

中教審の3つの「答申」にあたって

憲法子どもの権利条約にもとづき抜本的な教育政策の転換を求めます〜

  (「教員養成 答申」、「チーム学校 答申」、「コミュニティスクール 答申」)

2015年12月22日
全日本教職員組合(全教)
書記長 小畑 雅子


1.中央教育審議会は、12月21日総会を開催し、「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について〜学び合い、高め合う教員育成コミュニティの構築に向けて〜(答申)」(以下、「教員養成 答申」)、「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)」(以下、「チーム学校 答申」)、「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について(答申)」(以下、「学校運営協議会等 答申」)、の3つの「答申」を決定しました。これら3つの「答申」は、安倍「教育再生」を教員の養成・採用・研修、教職員配置、学校運営体制などに関わって具体化するものであり、日本の子どもと教育の現状の困難や課題を克服するどころか、いっそう子どもたちを追いつめ、学校や教職員への統制を強化しようとするものです。


2.3つの「答申」は、それぞれ以下のような問題点を持っています。


(1) 「教員養成 答申」は、現在の学校と教育の困難を打開し課題を克服する責任を主として個々の教員の資質に求め、学校と教職員の自主性を奪い、長時間過密労働を放置している国と教育行政の責任を放棄するものとなっています。同時に、安倍政権の目的遂行のために国による教育への政治支配を強化する方向で、教員の養成・採用・研修を統制しようとするものです。それは、「教員育成指標」の策定、「教員育成協議会(仮称)」の設置、採用選考試験における共通問題の策定、学校インターンシップの導入など、教員養成段階からいっそう国や行政当局の統制を強化しようとするものであるとともに、大学の自治や学問の自由を侵害しかねないものです。


(2) 「チーム学校 答申」は、養護教諭栄養教諭等の配置基準の改善、スクールソーシャルワーカースクールカウンセラー、部活動指導員(仮称)などを法に位置づける方向性を打ち出してはいるものの、管理職層の配置増など学校長の「マネジメント」力を強化する観点からのものとなっており、チームワークが大切にされなければならない学校職場の共同を阻害するものといわなければなりません。


(3) 「学校運営協議会等 答申」は、学校運営協議会(コミュニティスクール)の設置促進、「地域学校協働本部(仮称)」の新設などを提言しています。「校長のリーダーシップの発揮」のために、委員の任命に関わって校長の意見を反映するしくみを提言するなど、学校運営を子ども、父母・保護者、住民、教職員などの参加を得てすすめるのではなく、教育委員会と学校長が主導して学校運営をすすめる体制を整備するものです。また、複数校で共同で設置することなども提言しており、学校統廃合や小中一貫校の設置をすすめる手段となる懸念もあります。「家庭の教育力の低下」を口実に、家庭教育に責任を負わせ、そのあり方に踏み込むものとなっています。さらに、「地域学校協働本部(仮称)」は、「土曜授業」や「放課後子ども教室」などを推進するために、地域住民などにその「支援」を押しつけるものとなる危険性を持っており、教育行政の責任を放棄することにつながりかねないものです。


3.3つの「答申」は、いずれも「少子高齢化」やグローバル化などに日本社会が直面しているという課題意識のもとに、そうした下での人材育成を行うことを目的とするものであり、教育を時の政権の政治支配の道具として利用するものです。こうした立場は、戦前の教育が戦争遂行と植民地支配をすすめる政府の目的に利用され、多くの子どもたちを戦場に駆り立てたことへの反省から確立された「教育は不当な支配に服さず」とする立場とは相いれないものであり、容認できません。


4.日本は、いじめや登校拒否・不登校、自殺、虐待の増加など、子どもと教育をめぐって多くの困難を抱えています。これら、一つ一つの背景には、貧困と格差の拡大、競争主義教育の激化、地域経済の弱体化、貧困な教育条件など、さまざまな社会的要因が指摘されています。しかし、3つの「答申」は、子どもと教育をめぐる困難の打開をもっぱら子どもと父母・保護者、学校と教職員、地域住民の責任とし、これらの社会的要因をつくり出してきた国や行政の責任を不問に付しています。子どもと教育の現状の背景への認識もその処方箋も間違ったままでは、子どもたちの未来は開けません。


5.今、求められているのは、国の責任で30人学級を実施するなど学級定員をOECD諸国並に引き下げること、全国一斉学力テストなど競争主義的な教育をあらためること、教職員の長時間過密労働を抜本的に改善すること、学校や教職員への統制ではなく自主性や自由な議論を尊重することなど、子どもと教育に自由とゆとりを取り戻すことです。


  全教は、子ども、父母・保護者、国民、教職員による参加と共同の学校づくりをすすめるとともに、憲法子どもの権利条約にもとづき、国の責任による少人数学級の実現など抜本的な教育政策の転換を求めて全力をあげるものです。