特別支援学校の過大・過密解消につながる設置基準の策定を今すぐ
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「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議 これまでの議論の整理」(案)
に関する書記長談話
2020年7月8日
書記長 檀原毅也
文部科学省に置かれた「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」は6月30日、「これまでの議論の整理(案)」(以下「議論の整理」)を示しました。
その中で、「特別支援学校における教育環境の整備」について、
「在籍者数の増加により慢性的な教室不足が続いており」、
「特別支援学校の教育環境を改善するため、
国は特別支援学校に備えるべき施設等を定めた設置基準を策定することが求められる」としています。
特別支援学校の教育環境について、有識者会議がこのように議論を整理したことは重要です。
学校教育法第一章第三条では
「学校を設置しようとする者は、学校の種類に応じ、文部科学大臣の定める設備、編制その他に関する設置基準に従い、これを設置しなければならない」
と定めています。
しかし、特別支援学校にはその設置基準がありません。
学校教育法で規定された「学校」の中で、設置基準がないのは特別支援学校だけです。
全国的に特別支援学校の児童生徒数が急増し、
それに見合った学校建設がおこなわれてこなかったことで深刻な教室不足をもたらしました。
2012年度の文科省調査では4633教室が不足していることが明らかになり、
2019年度の調査でも依然として3162教室が不足しています。
教室が足りないため
「教室を仕切って2教室として使用」
「特別教室をすべて普通教室に転用」
などの事態が全国各地で起きています。
全教は、設置基準がないことが教室不足の最大の原因として、文科省に対して設置基準策定を求めてきました。
しかし文科省は、「特別支援学校は障害種が様々であるため、障害に応じて柔軟に対応できるよう設置基準は設けていない」の回答をくり返してきました。
その間、急増する児童生徒数に応じた学校建設はおこなわれず、特別支援学校の過大・過密化が進行しました。
現在、新型コロナウイルス感染拡大が懸念される中、
基礎疾患のある子どもたちが多く在籍する特別支援学校では、
とりわけきめ細やかな対策が必要です。
しかし、「3密」を防ごうとしても、間仕切った狭い教室では「身体的距離」を確保することはできません。
特別教室の転用で普通教室以外の教室がないため場所を分けることもできません。
トイレや水道に行列ができるなど、学習場面以外でも大きな困難に直面しています。
教室不足問題に対して、国が責任を果たさず、長期にわたって現場にその対策を丸投げしてきた結果、子どもたちや教職員のいのちと健康を脅かす深刻な事態となっています。
今回、「議論の整理」で、有識者会議が国に「設置基準を策定することが求められる」と論点を示したことは、私たちが父母・保護者とともに粘り強く続けてきた運動の成果です。特別支援学校の過大・過密の抜本的な解消につながるものとして期待されます。
そのためには、設置基準に児童生徒数の上限や学級数の上限、必要な特別教室、通学時間の上限などが書き込まれなければなりません。
「児童生徒数は150人以下とする」
「自宅から学校までの通学時間を1時間以内とする」
というような具体的な基準が必要です。
さらに、理科教室、音楽教室、図画工作教室(美術室)、家庭教室、図書室など、小中学校に設置されている特別教室に加え、作業室、プレイルーム、自立活動室など特別支援学校独自の特別教室や、障害種に合わせて必要な施設・設備の設置を明記すべきです。
「議論の整理」では、「可能な限り共に学ぶ」ことがくり返し強調されていますが、
機械的に地域の学校への在籍を促し学校新設の抑制を意図することがあってはならず、地域に根ざした小規模な特別支援学校が建設されるようにしなければなりません。
全教は、父母・保護者、地域のみなさんとともに、特別支援学校の条件整備を求めるとりくみを広げてきました。
2012年からは「設置基準策定を求める署名」にとりくみ、これまでに50万筆を超える署名を国に提出しています。
粘り強く続けた地道な運動が国の姿勢を変え、設置基準策定に向けて動き出そうとしています。
こうした情勢の下、全教は、より広範な方々と手をつなぎ、特別支援学校の実効ある設置基準を早期につくり、過大・過密の解消で子どもたちの学ぶ権利を保障するために、全力を尽くす決意です。
以上
「特別支援学校の設置基準策定を求める請願署名」
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