【全教談話】

財政制度等審議会の「平成29年度予算の編成等に関する建議」について

   2016年11月29日
全日本教職員組合(全教) 
書記長 小畑 雅子

1.11月17日、財政制度等審議会は、2017年度予算編成に向けて歳出削減を求める「建議」を麻生太郎財務相に提出しました。歳出削減の最大の課題を社会保障費の抑制とし、高齢化の進展や技術の進歩に伴う自然増が年間8000億〜1兆円とされるものを「5000億円に確実に抑制すべき」と強調しています。2017年度概算要求で厚労省が6400億円に圧縮した自然増分をさらに1400億円も削減しようとするものです。財政健全化を強調しながら、大企業・富裕層優遇税制の是正などの歳入改革には触れず、軍事費の拡大を容認する一方で、医療・福祉・教育などの国民生活を犠牲にしようとするものであり、断じて容認できません。


2.小中学校の教職員定数については、平成に入って児童生徒数は約30%減少した一方、教職員定数は9%の減少にとどまり、結果として児童生徒40人当たりの教職員数は約40%増加したとしています。そして、現在の教育環境である「10クラス当たり約18人(基礎定数16.2人、加配定数1.6人)」を維持したとしても、今後10年間で、少子化により基礎定数4.4万人、加配定数0.5万人の計4.9万人の削減が可能としています。
 児童生徒1人あたり教職員定数がこの27年間で約40%増加していることの内訳は、10年以上前に終了した第5次・6次・7次定数改善計画実施によるものが27%、障害児学校・学級に通う児童生徒の増加によるものが11%の合計38%を占めています。この10年間は教職員定数改善計画が実施されておらず、小中学校の通常学級に通う児童生徒1人あたりの教職員定数の増加は、通級やいじめ等の教育課題に対する加配定数の拡充による2%分(児童生徒40人あたり0.04人)でしかありません。「建議」は、障害児学校・学級が増加することを前提とした試算としていますが、通級による指導を受けている児童生徒数はこの10年で2.3倍、日本語指導が必要な外国人の子どもの数は1.45倍となるなど、「特別な指導が必要な児童生徒数」の増加傾向は反映されていません。


3.「加配定数の充実により、現在の水準を超えて教職員を増加させることを一概に否定しているわけではない」としながら、「『通級による指導』及び外国人児童生徒への対応に重点を置いて基礎定数化及び増員を要求」するのであれば、「科学的なエビデンス」を提示することを求めています。そして、通級指導に関する教員一人当たりの児童生徒数が都道府県ごとに最大15倍もの差がある、通級指導教室を設けずに外部の支援員や副担任などで対応しているなどの現状をあげ、教員の「数」ではなく、ICTなどを活用した知識・技能こそが重要としています。そもそも通級指導教室は現在加配定数で対応しているために、あらかじめ決められている数以上の教員配置はなく、一人の教員で20人も30人も担当しています。また、指導を受けたくても受けられない子どもたちが多数存在しています。教員一人当たりの児童生徒数の都道府県格差は、その実態の反映であり、効果があるから支援員や副担任で対応しているわけでもありません。


4.日本の教員が「主要先進国の中でも特に多忙である」ことを認めながら、教員の数を増やそうとせず、「チーム学校」の観点から、授業以外の仕事を担う「多様な外部人材の活用」という安上がりな「代替策」で、「今いる教員が授業を含め必要とされる指導力向上に専念できる環境を整備していく」としています。
 日本の教員は、教科の授業以外にも学級経営や児童会・生徒会指導、部活動指導、さらには進路指導や児童・生徒指導など多岐にわたる教育活動に携わっており、そのことが総合的に児童・生徒の人格形成に寄与しているのです。スクールソーシャルワーカーなどの専門職員の配置をすすめることは一定の意義あることですが、教員と特定の業務に携わる専門職員とではそれぞれの職務内容・専門性が異なっており、教員の役割を単純に「代替」できるものではありません。


5.世界で最も多忙な日本の教員の状況を改善して、子どもの教育に専念できるために最も効果を発揮するのは、OECD平均より小学校で6人、中学校で9人多い1学級当たりの生徒数を減らすことです。さらに、「教育に穴があく」という状況を生み出している臨時教職員の異常なまでの増加を早急に解消する必要があります。不安定な加配措置ではなく、基礎定数を充実させた標準法の抜本的改正をおこなうべきです。


 全教は、少子化を教育条件向上のチャンスに変え、国民的願いであり国際的常識でもある、小学校から高校までの35人以下学級の早期実現、高等教育までの学費の無償化、給付制奨学金の創設・拡充のための財政措置をおこなうことを強く求めるものです。
                                       以上