東日本大震災支援ニュース第15号

全教・教組共闘 東日本大震災対策本部

2011年5月25日(水)

福島県立高教組を先頭に、東京電力と交渉

放射能汚染による学校・生徒への深刻な被害に緊急対策を!

福島県では、原発事故による放射線汚染により、避難地域にある9つの県立学校(高校8、特別支援学校1)では、本来の校舎が使えず、児童・生徒が県内外の学校に転校したり、他の学校を間借りして学ばざるを得ない(サテライト方式)異常な事態となっています。
こうした状況のもと、全教・日高教は、現地の福島県立高教組の杉内書記長をはじめ、避難地域の相双支部役員など8名の組合員を先頭に、5月25日午前11時半より1時間にわたる東京電力との交渉を行いました。全教から磯崎副委員長、日高教から加門委員長、藤田書記長、五十嵐執行委員が参加しました。

高校生の学ぶ場と学ぶ権利を奪ったことに対し「明確な謝罪」を要求

交渉では、最初に、加門日高教委員長が「原発事故による放射能汚染は、広範囲の子どもたちの学ぶ場と学ぶ権利を奪った、明確な謝罪を行なうべきだ。自らの責任を明らかにした上で、被災地域の教職員をはじめとする県立高教組の声に耳を傾け、教育保障の条件を整えるために全力をあげよ」と要求しました。
続けて、杉内書記長が福島県立高教組の『高校生・障害児学校生の学習権保障を求める緊急要請書』【別紙】を手交しました。


東電からは、回答が読み上げられましたが、「多大なるご不便、ご心配、ご迷惑をおかけし申し訳ない」と述べるだけで、緊急の対策については「補償については国の指針策定を待って…」「国と自治体と連携し…」「国の支援を賜りながら…」「第一義的には自治体が対応し…」などと、東電が自ら対応する姿勢を示さないという不当な回答を繰り返しました。

東京電力に学校現場の実態を示し、教育と安全を確保する緊急対策を要求


これに対して、避難地域を含む学校現場から参加した教職員は、深刻な実態を次々と明らかにするとともに、具体的な緊急要求についても回答を求めました。また、母校を奪われた高校生の学習権を侵害した責任を自覚し、東電としての責任を果たせと強く迫りました。


「修学旅行をはじめ学校行事はほとんども中止になった。部活動はできず、3年生にとって最後の大会にもでられない。普通ならとりくめた高校生活ができなくされている。来年は募集停止になり、母校がなくなってしまうのではないかと生徒たちは心配している」(双葉高校・双相支部書記長)


「原町高校の生徒は母校の前に朝集まり、サテライト校まで20キロもバスで通っているが、バスが足りないため後発の生徒は2時間目から授業が始まり、終了が4時過ぎと遅くなり部活もできない。東電で至急バスを借り上げてもらいたい」(原町高校・双相支部長)


「母校は地震でも津波でも被害を受けていないのに放射能のためにカギをかけられている。サテライト校では、2百数十人の生徒が体育館を6つに仕切ったところを『教室』にして授業を受け、工業科の実習もできずにいる。生徒は母校に早く戻りたいと願っている。東電はこの生徒たちにどう責任を果たすのか」(小高工業・女性部長)


「子どもたちが自分の家に帰り、自分の学校に安心して通えるようになるための行程表を東電として示し、そのための責任を果たすべきだ」(川俣高校・分会長)


放射線量の累積線量計は各校に一つしかなく、校舎内や校庭での部活動など生徒の活動場面に合わせて複数の線量計が至急必要だ、東電として支給せよ」
「校庭の表土の除去には一校で1500万円かかる、県は予算がないと実施していない。東電が負担すべきだ」(足立高校・杉内書記長)


こうした深刻な実態の告発と厳しい要求に対して、東電側は「学校の実態は把握するように努める」「東電として何ができるか考えている、できることはやっていきたい」と答えました。

東電に子どもと教育にかかわる責任を求めるたたかいのスタート


東電の対応について、加門日高教委員長は、「心配、不便、迷惑をかけているという東電側の認識の甘さをまず改めるべきだ。第一義的には自治体が対応することなどの回答は許せない」と厳しく批判しました。


最後に、磯崎全教副委員長は、東電が学校の実態を把握し「東電としてできることはやっていきたい」と答えたことを再度確認したうえで、「原発事故は安全対策を怠ってきた東電による人災であり、全責任を持って抜本的な対策を実施すべきだ。校庭表土の除去やクーラー設置を緊急に実施し、国と東電に費用は請求すると言っている自治体もある。国の指針待ちでなく、東電としてメッセージを自治体や学校に示すべきだ。全面的な財政上の責任を果たすことを求める」と要求して交渉を終わりました。


今回の交渉は、東電に、子どもと教育にかかわる第一義的な責任を求めていく新たなたたかいのスタートとなりました。社会的にも注目され、NHKをはじめ、新聞各社が取材し、終了後も記者会見などを行いました。特に、福島の学校と生徒の実情について、組合員への質問が繰り返されました。

2011年5月25日

東京電力株式会社 代表取締役社長 清 水 正 孝 様
福島県立高等学校教職員組合
執行委員長 高橋 聡

高校生・障害児学校生の学習権保障を求める緊急要求書


3月11日の東日本大震災をきっかけとした東京電力福島第一原子力発電所で引き起こされた放射能を大量に撒き散らした大事故は、相双地区だけでない多くの福島県民の生活を困難にしました。さらに、この大惨事は未だ収束することなく、放射性物質の放出が続いており、汚染の深刻化への不安が福島県民を苦しめ続けています。

   避難地域にある9つの県立学校(高校8、障害児学校1)では、本来の校舎が使えず、児童・生徒が転校や他の学校を借りて学ばざるを得ない極めて異常な事態となっています。県立高校8校はサテライト方式で、他校の校舎や体育館などで授業を始めましたが、避難先からの通学が不便、部活動が行えない、大会参加に不利がある、実業高校なのに実習が充分に行えないなど、県内他地区の高校生と比較しても多くの困難をかかえ、学習権保障が十分と言えない状況にあります。サテライト校の生徒たちは、全校生が一度も一同に集まることもなく、高校生活を送ることになることも考えられます。富岡養護学校では、児童生徒の半数以上が他県に避難しており、そのうち何名かは通学できていないため、学習権が保障されていない状況にあります。

  希望の春を迎えるはずであった多くの新入生の夢は、一度も母校に通うことができずに打ち砕かれました。さらに地元とのつながりがない中で就職活動を強いられたり、十分な指導を受ける時間がないままに大学受験に臨まなければならなかったりする高校3年生には、不安と不満が渦巻いています。サテライト校に勤務する教職員は、生活基盤地から大きく離れた遠距離勤務地を兼務する疲労とたたかいながら、限られた環境の中でも生徒達に可能な限り充実した教育活動を行うため、必死の努力を続けています。障害児学校の教職員も同様の状況にあります。こうした深刻な状況をもたらした原因と責任が、東京電力にあることは明白です。


  高校生や障害児学校生から、夢と希望を奪った東京電力が、生徒と保護者に対して、いまだ謝罪の一言もないという不誠実な対応に対して心からの怒りを禁じえません。よって、私たちは貴社に下記の事項を要求し、誠意ある回答を求めます。


1 今回の東京電力福島第一原子力発電所事故で避難を余儀なくされ、母校所在地に通えなくなった生徒や保護者に説明責任を果たすこと。


2 通うはずだった学校に通学できないため、各地の高校に転入した生徒、他の障害児学校に分散して学習せざるを得ない児童・生徒、サテライト方式で学ぶことが求められる生徒の教育条件を保障するため、仮設教室や仮設校舎と冷暖房の設置、教育諸経費の負担、避難場所からの通学費などに対して責任を果たすこと。


3 事故収束後、避難対象となった学校の再開に向けて必要なあらゆる財政措置は、東京電力の責任で行うこと。


放射線被ばくに脅える県内すべての学校の生徒や教職員のいのちと健康、生活と権利を守るため、以下の項目について、東電の責任で行うこと。
(1)放射線を測定するための線量計を、すべての県立学校にゆき届くよう配布すること。


(2)放射線被ばくから児童生徒の健康をまもるために学校が行う校庭・園庭の表土の除去、実習場・実習施設などの線量を減らすための諸取り組みの経費を負担すること。


(3)警戒区域計画的避難区域からの避難者を避難所として受け入れた県立学校については、学校独自の負担で受け入れ対応した経費について調査し、その経費を負担すること。


(4)放射線の被ばく線量を考慮して、希望する児童・生徒の長期にわたる健康診断を行う経費を負担すること。


(5)避難生活のストレスや、放射線被ばくへの恐怖感から精神的に不安定になっている生徒や保護者に対応できるよう、スクールカウンセラーや心理カウンセラーの大量配置を行うこと。


(6)放射線の危険性や原発事故の収束に向けた見通しなどを相談したい保護者に対する相談窓口を設けること。


(7)生徒・保護者に学校で放射線防護について学習したいという要望がある場合は、講師の派遣費用を負担すること。