尾崎裁判・静岡地裁の不当判決に反論を!

尾崎裁判・静岡地裁07年3月22日判決の最終部分

学校教育や教員の仕事、教育現場を知らないにもかかわらず、不当で偏見に満ちた判決だと思います。是非、反論し意見してほしいと願います。もっと知りたい方は、連絡してください。  尾崎さんの公務災害認定を支援する会事務局

【107ページに及ぶ判決文の99ページ最初の部分まで省略】
【以下は、99ページから107ページに至る裁判所の主な判断部分です。】
※ 「善子」とは、自殺された尾崎善子さんのこと
    「原告」とは、公務災害認定を求めて提訴した尾崎さんのご遺族及び弁護   士のこと
平成11年=1999年、平成12年=2000年
………
 以上のとおり、疫学研究及び精神医学研究の見地から、本件うつ病発症の原因は、発症前に善子が従事していた公務にあったとするのが妥当である。
(5)そこで、前記(2)の見地から、前記(3)の事実に基づいて、前記(4)の医師の意見も参考にしつつ、善子の自殺が公務の過重性を理由とするものであると認められるか否かについて判断する。

 ア 前記(3)の事実及び前記(4)の医師の意見によれば、善子は、本件体験入学実施の前後にうつ病に罹患し、休職の上治療を受けることによって一時はその症状が軽快したものの復職間近になって重症化し、うつ病に基づく自殺念慮発作によって自殺したものと認められる。

イ(ア)土方小学校における善子の日常の職務の過重性の有無について

a 土方小学校において善子が受け持っていた養護学級は、普通学級に比べて児童数は少ないが、他方、児童の個々の障害の程度に合わせたきめ細かい教育指導が要求され、また、基本的な生活態度の習慣付けなどをする必要がある点でそれだけ手間がかかることも否定し難いところである。
さらに、①平成11年4月の千浜小学校から土方小学校への転任が善子にとって不本意なものであったこと、②新設されたばかりの士方小学校の養護学級には、障害児教育のための教材や教具が不足していたこと、③善子の日記の内容をみても、在籍児童Yに対する指導方法に思い悩んでいた様子が認められることなどに照らすと、土方小学校に転任後の職務について、善子が、自己の能力に照らして大変と感じていたであろうことは推認することができる。

 b  しかしながら、前記認定事実によれば、善子は,前任校の千浜小学校において、平成9年度は級外として養護学級で週3、4時間の授業を受け持ち、平成10年度には自ら希望して同校の養護学級の担任をしており、平成11年4月に土方小学校に転任するまで通算2年間に及ぶ養護学級での経験を有しており、養護学級担任の職務に不慣れであったとはいえない。また、土方小学校における養護学級の児童数は2名であるが、平成12年度当時、静岡県内にある小学校の養護学級のうち児童数が4名以上の学級が全体の6割近くを占めていたことからすると、善子が担当した児童数が特別多いとはいえない。さらに、公立学校の教職員にとって職場の変更等は珍しいことではないし、本件養護学級の教材及び教具の不足についても、平成11年6月末以降は改善されていった様子が窺われるほか、平成12年3月になると、善子は、在籍児童及びその親との信頼関係ができたことを理由に、次年度もそのまま持ち上がりで本件養護学級を担任したいと希望していたのである。そして、土方小学校では1日の勤務時間が平日は午前8時から午後4時45分まで、土曜日は午前8時から午前12時までとされていたところ、善子はほば毎日定時に退庁しており、平日午後6時まで残ることはほとんどなかった上、善子は、平成11年4月から同年12月までの間に年次有給休暇を13日と3時間(この数値については、時間休暇が8時間に達した場合に1日として算定している。)取得しており、休日労働を行った日はなかったことなども考慮すると、十分な疲労回復時間が確保されていたというべきであるから、'時間外休日労働によって精神的肉体的疲労が蓄積していたとは認められない。

以上に加え、善子の休職中にその職務を引き継いだ養護教育について全く経験のない教師歴6年目の講師や、善子の自殺後に本件養護学級の担任になった新規採用の講師さえも、特に問題なく職務を行っていたこと(甲39)などに照らすと、土方小学校における日常の職務が、善子に対して強度の心理的負荷を与えるものであったとは考え難いというべきである。

(イ)本件体験入学実施による過重性の有無について

a 本件体験入学は、体験児童が、平成11年4月に児童福祉施設東遠学園に入所し、同施設に併設されている東遠分数室に通学するようになって、唾吐きや噛み付きなどの問題行動が治まってきたことを踏まえ、体験児童の親が希望する家庭での引き取りに問題がないか見極めるとともに、体験児童の養護学級への適性、在籍児童との関係及び養護学級で受け入れた場合の問題点等を確認し、体験児童の入所措置を解除するのが適切か否かを判断するために実施されたものであることは先に認定したとおりであって、本件体験入学の実施それ自体が不適切な対応であったということはできない。そして、前記認定事実のとおり、本件体験入学は、平成11年12月10日にその実施が正式に決まってから、約1か月かけて、①土方小学校と東遠分数室との打ち合わせ(2回。うち1回については、善子が、東遠分教室に赴き、体験児童の様子を確認するとともに、同教室の岡本教頭や平岡教諭から体験児童の状況について説明を受けている。)、②土方小学校内での事前打ち合わせ(4回)、③体験児童の保護者との事前打ち合わせ(1回)及び④在籍児童保護者に対する説明会(1回)等を経た後に実施されたものであり、善子には、本件体験入学実施の決定を受け入れ、体験児童を迎え入れるための十分な情報と時間的余裕が与えられていたものである。本件体験入学の内容をみても、前記認定事実のとおり、その実施期間は平成12年1月20日から同年2月2日までの2週間(実日数は11日間)限りとされ、また、在籍児童の学習に支障が生じないよう、通常の授業とほとんど変わらないカリキュラムが組まれていた上、本件全証拠を子細に検討してみても、善子が体験児童のために特別に用意した教材は、国語や書写の授業で使用した線の練習用プリント程度に止まること、体験児童の唾吐き、暴力行為等の問題行動については、関係機関との打ち合わせの際に既に指摘されていたことであり、いわばそのための対策を講じる意味もあって、土方小学校では、体験入学期間中、校長、教頭を含め、手の空いている教師が誰かしら授業に参加するようにとの申し合わせがされていたこと、実際に体験児童の問題行動により授業運営に支障を来すような事態が幾度か生じたことは否定できないが、その都度、授業に参加していた教職員らが、体験児童の相手をしたり、在籍児童と体験児童を―時的に引き離すなどして、善子一人に負担がかかり過ぎないよう配慮していたこと、善子は教師になって22年目であり、前任校である千浜小学校においても、善子は、養護教育を2年間担当しており、障害児に対する捜し方についてもそれなりのノウハウを身に付けていた様子が窺えること、養護教育について経験の乏しい小林校長や熊切教頭も、善子より教師経験が少ないと思われる土方小学校の講師らでさえも、体験児童の相手を無難にこなしていたことなどが認められるのであって、これらの事実を総合すると、本件体験入学の実施が、客観的にみて、善子に対して強度の心理的負荷を与えるものであったとは認め難い。

 b  この点、原告は、これまで在籍児童の保護者らと常に親密な関係を保ち、その連携を重視してきた善子にとって、本件体験入学期間中の在籍児童の保護者らの体験入学中止要請(甲83ないし87)はまさに身につまされるものであったに違いないと主張する。しかしながら、前記認定事実のとおり、土方小学校は、本件体験入学に先立ち在籍児童の保護者らに対して説明会を行い、体験入学の目的・内容等を十分に説明していたものである上、在籍児童の保護者らの上記中止要請に対しても、小林校長が同保護者らと面談し、本件体験入学の続行について一応の理解を得ていたものである。また、善子と在籍児童の保護者らとの関係をみても、前記認定事実のとおり、本件体験入学後(平成12年3月18日)の在籍児Fの母親からの連絡帳には「来年度もよろしくお願いします」との書き込みがあったこと、同月下旬には、善子が、小林校長に対し、在籍児童及びその親との信頼関係ができたことを理由に、平成12年度もそのまま持ち上がりで本件養護学級を担任したいと希望していたことなどに照らすと、本件体験入学を通じて善子と上記保護者らとの関係が特に悪化した様子も窺えないのであって、原告の上記主張を採用することはできない。

  また、原告は、本件体験入学後の平成12年3月上旬に実施された在籍児童の発達検査において、在籍児童Yに関し「担任の先生や母親からの聴き取りの中で、行事での太鼓やピストルの音・テレビやカセットが急になり出す・広報でのサイレン等などで強烈な不安が多く見られ、聴覚性過敏の傾向が―層明確になっているように感じます。また、集会や祭典等の人込みする場面の苦手さ、あるいは道順や水道の位置等へのこだわりも見られ、自閉症の症状を随所で感じます。」と指摘されていること(甲94)からすれば、体験入学実施中の出来事が在籍児童Yに対し悪影響を及ぼしたことは明らかであり、これは、まさしく善子が事前に懸念し、本件体験入学の実施をやめてほしいと希望していた所為に他ならず、この懸念が現実化したことを知った善子の心中は察するに余りあると主張する。しかしながら、前記認定事実のとおり、上記発達検査では、在籍児童Yが幼稚園時代に比べ、表情が豊かになり、対人間関係がとりやすくなったこと,とくに題意をとらえた応答性のある会話のやりとりがスムーズになり、言語性の底上げがはかられていること、2つの検査のいずれも、言語領域が高まり全体のプロフィールの片寄りが減少したこと等が指摘されており、同児童が土方小学校に入学してからの約1年間で能力的に大きな成長を遂げたことが認められる上、この診断結果を知らされた善子においても、これまでの指導が実を結んだと喜んでいたことなどに照らすと、原告の上記主張も採用することができない。

さらに、原告は、善子は、本件体験入学の約2週間前から体験入学実施直後の約1か月間(平成12年1月5日〔水〕から同年2月6日〔日〕までの間)は、日常の職務のほかに、本件体験入学の実施に伴う職務を担当しており、その間の時間外労働時間数は計85.5時間に上ると主張し、証人尾崎正典も、善子は学校の書類を家のワープロで作成していた旨供述する。しかしながら、上記期間中、善子は―人暮らしをしていたのであり(甲24)、証人正典らと同居していなかったことからすれば、善子が学校の書類を家のワープロで作成していたとの上記供述をそのまま信用することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない(甲79については、その作成時期が不明である。)。

(ウ)  以上に検討したところを総合すれば、善子の日常の職務や本件体験入学の実施による負荷が、社会通念上、客観的にみて、うつ病を発症させる程度に過重であったと認めるのは困難であるといわざるを得ない。なるほど、本件全証拠に照らしても、善子について、うつ病の原因となるに足りる公務以外の心理的負荷が存在したとか、もともと顕在化していた個体側要因として顕著なものがあったとかの事実が認められるわけではなく、この点に、前記のとおり、善子は本件体験入学実施の前後にうつ病に罹患していること、前掲の善子の日記やノートの内容及び善子の症状に関する医師の意見をも合わせ考えれば、善子が本件体験入学の実施に伴い強いストレスを感じ、それがうつ病の誘因になったことは否定できない。しかしながら、本件体験入学が、既に認定したとおり、その期間、目的、事前打ち合わせ、実施態様等に照らし、客観的にみて、社会通念上、当該職務担当者にうつ病を発症させるような負荷を与えるものであったと認めることができない本件にあっては、上記ストレスは当該公務それ自体がもたらしたものであるというより、善子が本件体験入学について過剰なまでの拒否反応を抱き、その事態をうまく受け入れてその気持ちを対処できなかったことから生じたものであったというほかないのであって、このことは、体験入学が終了し、その後すぐに体験児童の親が転入希望を取り下げたにもかかわらず、善子のうつ病の症状がこれにより全ぐ改善しなかったことからも肯認されるものである。そして、前記のとおり、うつ病発症のメカニズム・機序については精神医学的にいまだ完全には解明されていないのが現実であるものの、それまで顕在化していなかった体験や性格等に関連した個体側要因が前記ストレスをきっかけに発現し、これによりうつ病が発症したものと解することは十分可能である。

したがって、当該公務自体が、社会通念上客観的にみて、うつ病を発症させる程度に過重であると認められない本件においては、善子のうつ病の発症につき公務起因性を認めることはできないというべきである。

また、付言すれば、本件請求は、善子の自殺が公務によるものであるとの認定を求めるものであるところ、①前記認定事実のとおり、善子のうつ病の症状は、平成12年4月に休職してから、その治療を受けることによって同年6月ころにいったん軽快したものの、その後、職場復帰の日が近づくにつれて、再び症状が悪化しているところ、これは、復職という問題が現実化した際、復職そのものに対する抵抗感・緊張感が善子に強く生じ、これが同女にとって新たなストレスになつたものとも解され、そのストレスが、独自に、善子を自殺に向かわせるまでうつ病を増悪させた可能性も否定できないこと(なお、原告は、善子が体験児童の転入の可能性を危惧していた旨主張するが、前記認定のとおり、善子は、平成12年度もそのまま持ち上がりで本件養護学級の担任を希望していたのであり、同児童の転入についてさほど心配していた様子は窺えず、また、平成12年2月4日に体験児童の次年度の転入申請が取り下げられており、これを善子も認識していたことからすると、原告が主張する上記危惧感というのは、体験児童の平成13年度以降の転入に関してということになるが、仮に善子がそのような先のことまで気にかけ、自己の精神障害を増悪させたというのであれば、これはむしろ、単なるうつ病親和的病前性格を越えた善子の精神的脆弱性の存在を強く窺わせるというべきである。)、また、②証拠《甲50,乙8、10、証人西村)によれば、本件発症後、善子には、典型的なうつ症状のほかに、徐々に精神病的症状や更年期症状といった様々な症状の発現が認められ、自殺念慮発作により自殺するまでうつ症状が増悪したのは、これらの善子の抱える内因が相当な影響を与えたことが窺われること、さらに、③証拠(甲26の2、50、乙8)によれば、善子は、平成12年7月12日以降、自らの判断で、岡本クリニックから処方された薬を飲んだり飲まなかったりする状態であったことが認められ、このような服薬の方法がうつ症状を増悪させることは経験則上明らかであること等に照らせば、うつ症状によってした自殺行為による善子の死亡が、土方小学校で担っていた日常の職務や実施された本件体験入学が有する公務の過重性によるものであったと認めることができないことは、なおさらである。

 以上の次第で、本件全証拠によっても善子の死亡が公務によるものであると認めることはできない。

第5 結論
 よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
       静岡地方裁判所民事第2部
              裁判長裁判官   川口 代志子
                 裁判官   三島 恭子
                 裁判官   鈴木 和孝