教育の自由を奪い国家主義教育推進の手がかりを与える重大な改悪案

                     弁護士 村 山  晃
                  (全教常任弁護団・京都第一法律事務所)

教育基本法の改悪案が、遂に国会に登場した。教育基本法は、60年間あるべき教育行政の方向性を指し示してきた。これほど大きな役割を発揮してきた法律は少ないと思う。法律とは国家をしばるためのものにあるという、法律本来の役割を大きく発揮してきてくれたのである。
残念なことに国や自治体の教育行政は、基本法をないがしろにした教育施策を実施してきた。しかし、その都度、市民や教職員の厳しい批判を受けてきて、一定の軌道修正を余儀なくされてきた。そこには基本法の力があった。
今回の改悪は、教育の目標に「公共の精神」や「国を愛する態度を養う」などを掲げて、内容的に国家主義的方向に持っていこうとすることにあるが、私がより重大だと思うのは、次の点である。
まず、これまで教育行政に最大の足かせをかけてきた第10条「教育行政」の条文を改悪した。戦前の国家主義教育を排した基本法は、教育への「不当な支配」を厳しく排斥することに最大の目的があった。不当な支配を行う危険性の最も強いものは、国・行政である。それを排斥するため基本法は、「教育は、国民全体に対し直接責任を負って行われるべきものである」という条項を、わざわざおいた。
ここでの主人公は、個々の教職員であり、「教育の自由」は、この条項から端的に導き出すことができた。現場で教育を進める上で、国・行政に支配されてはならないということを高らかに宣言したのである。
ところが、今回の改悪案は、「国民への直接責任」条項をばっさり削除し、この条文の主人公を教育行政に変えてしまっているのである。
ついで、新たな条文を追加して、政府に「教育振興基本計画」を策定する権限と責務を付与した。これまでの「教育条件整備義務」を大きく超え、国家目標としての教育政策の樹立を政府に全面的に委ねたのである。
この二つの条文の改悪は、個々の条文の改悪にとどまらない重大な内容を持っており、教育を国が支配していく、国が考える教育を実施していくための根幹をなすものである。
絶対に許してはならない。