【全教談話】

子どもたち一人ひとりが人間として大切にされる教育の実現に向けた施策を

〜「骨太の方針2018」の閣議決定にあたって〜

2018年6月27日
全日本教職員組合(全教)
書記長 小畑雅子


 6月15日、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2018」(「骨太の方針」)と「未来投資戦略2018」など、一連の政策方針を閣議決定しました。


(1)「骨太の方針」は、冒頭、「5年半に及ぶアベノミクスの推進により、日本経済は大きく改善している」としています。過去最高の企業収益、雇用・所得環境の改善、44年ぶりの高さとなった有効求人倍率、失業率の25年ぶりの改善などをあげ、経済が上向き基調にあることを強調しています。
しかし、こうした「景気回復」が国民生活においてまったく実感できないものであり、「アベノミクス」が貧困と格差を拡大する一方であることは明らかです。
骨太の方針」の成長戦略を示す「未来投資戦略」には「世界で一番企業が活動しやすい国の実現」とあり、「骨太の方針」が大企業最優先であることをはっきりと示しています。これでは国民の貧困と格差がさらに拡大することになります。
「若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、誰しもが活躍できる社会を実現することが不可欠である」と、働く権利や平等を保障するかのような記述がありますが、それは、深刻な人手不足や少子高齢化による労働人口減少の対策として、外国人労働者の受け入れとともに企業を支える労働者を増やすためのものであり、なりふり構わず「アベノミクス」を続けるための総動員体制づくりだということができます。


 「特に若年層に強い社会保障に対する将来不安や、社会保険料の負担増、教育費用など子育て負担は、現役世代の消費意欲を抑制し、個人消費の回復が力強さを欠く要因にもなっている」とした上で2014年の消費税増税による景気の落ち込みを認めているにも関わらず、2019年10月の消費税増税を強行しようとしています。「安定的な財源を確保するために必要」というばかりで、景気の落ち込みを防ぐための具体策はまったく示していません。


 貧困と格差を拡大するだけの「骨太の方針」は白紙撤回し、国民のいのちとくらしを優先する温かい経済政策に転換することが求められます。


(2)教育については、「人づくり革命」において、「幼児教育無償化」「高等教育無償化」「私立高校実質無償化」などをあげています。


しかし、その内実は、教育の無償化を求める国民の声を逆手にとって、利潤追求を至上命題とする財界・大企業の求めに応じるままに「教育」を政権の思惑に沿ったものにしようとするものです。それは、権利としての教育をすべての人に保障することから、国や財界への忠誠心や奉仕を求める「教育」へと変質させるものです。


 日本政府が2012年に留保撤回した国際人権規約社会権規約13条のいう無償教育は、すべての人に保障されるものです。
しかし、「骨太の方針」の「教育無償化」にはすべて「所得制限」や「学習成績」などの条件が設定されています。
「高等教育無償化」に至っては、学生本人だけでなく大学等にまで条件を課すという、信じられないような制約を加えています。
こうした施策を無償化と称することは一刻も早く改めさせなければなりません。


 「人づくり革命」そのものが、国があってそれを支える「人材」をつくるという発想で構築されています。
しかし、今必要なことはその発想を逆転させ、すべての人が権利としての無償教育を受けられるよう施策をつくることです。国がすべきはそのための政策を立てることです。


(3)「投資とイノベーションの促進」では、「教育の質の向上」が位置づけられ、「第3期教育振興基本計画」や教育再生実行会議の提言、「Society 5.0」に向けた「人材」育成のため、改訂学習指導要領の実施や、高校の機能強化、チーム学校の実現などがあげられています。


「教育の質の向上」が教育の視点で検討されたものではなく、経済政策実現のために利用できる「教育」推進のため書かれている点は重大な問題をもつものです。改訂学習指導要領によって国の定める「資質・能力」を子どもたちに身につけさせようとするのは、公教育を総動員して国や財界がもとめる「人材」育成をすすめるためのものということができます。


 また、教職員の働き方について「改善」をはかるとありますが、そのための最善策である少人数学級実現や教職員定数改善などにまったく触れていません。本来、財政運営をいうなら教育条件整備についての方針ならびに施策を示さねばなりません。


(4)全教は、「骨太の方針」に沿った教育政策ではなく、憲法子どもの権利条約にもとづき子どもたちの学ぶ権利を保障し、子どもたち一人ひとりを人間として大切にする教育・学校づくりをすすめる教育政策を強く求めるものです。そのために、概算要求期のとりくみと結んで、父母・国民の願いであるゆきとどいた教育の実現に向けた全国的な運動を大きく広げる決意です。


                         以  上