9月8日(木)木村裁判結審
 判決は、12月15日(木)13時30分〜静岡地裁201号法廷

 当日、原告側(木村さん側)弁護士が、お父さんに続き(別項)最終の意見陳述を行いました。
 以下のように・・・


 百合子さんが新規採用される3か月前の平成16年1月、文部科学省は「小中学校におけるLD,ADHD高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン」(甲19)を発表し、教育関係機関に対し、ADHD等の障害をもつ児童生徒について総合的な支援体制の整備に努めるよう、呼びかけました。当然、静岡県教育委員会も、T小学校のS校長も、このガイドラインの配布を受けているはずです。

 このガイドラインは、LD、ADHD高機能自閉症の障害のある児童生徒に対して、その一人一人の教育的ニーズを把握し、適切な教育や指導を通じて必要な支援を行うことを「特別支援教育」と定義づけています。このことからすると、もっぱら障害ありとして医師の診断を受けた児童生徒のみを対象とする教育支援体制についてのガイドラインかと思われるのですが、中身を見ますと、この教育支援体制の端緒は、「学級担任の気づき」「保護者の気づき」から始まっています。つまり、このガイドラインが定める教育支援体制は、本格的な特別支援教育が必要か否かについての協議・判断の段階も含んでいるのです。


 ガイドラインでは、校長向けに以下の通りの指針が示されています。
「小・中学校における特別支援教育の全校的な支援体制を確立するにあたって、校長自身がこのことの意義を正確にとらえ、リーダーシップを発揮することが大切です。」
「各学校が特別支援教育に組織(システム)として全校で取り組むためには、校長が作成する学校経営計画に特別支援教育についての基本的な考え方や方針を示すことが必要です。そして、その中で、特別な教育的支援を必要とする児童生徒への指導を学級担任任せにするのではなく、校長が先頭に立って、全教職員が協力し合い学校全体としての対応を組織的、計画的に進めるということを明確に打ち出す必要があります。」


 もし校長が、文科省ガイドラインに従ってT小学校において教育支援体制を構築していたなら、百合子さんは学年主任や初任者研修指導員の理解・協力が得られなかったとしても、特別教育支援コーディネーターに相談をし、N君の対応について助言を受けたり、同コーディネーターを通じて校内における調整を求めることができたはずです。そしてその助けは百合子さんの負担をどんなに軽減したかしれません。


 ところが当時ADHDという言葉すら知らなかった校長には、特別支援教育という視点は全くありませんでした。百合子さんの死亡を受けて、何か悩んでいることはなかったかと警察から事情を聴かれた校長が発した言葉は、「いたずら小僧に手を焼いていた。」でした。校長の認識の次元はあまりにも低すぎました。


 日々の状態を「基本」に詳しく記入していた百合子さんが、自分が初任者研修で受けた研修内容をそのまま引用して記載していた日があります。
 「児童の問題行動について,学校全体で一致した考えのもとに対処するために校長,生徒指導,学年主任などと話し合いながら指導をすすめることが大切である。特に保護者への対応は,担任一人で行うことなく複数の教員が関わることで,冷静な判断や共感が行える。」
 この日の研修内容は「校外での児童指導の実際と問題行動への対処の仕方」でした。「問題行動への対処の仕方」とはまさに,百合子さんが抱えていた課題そのものです。この研修を受けた百合子さんは,「どうしてT小学校は、教育委員会が言っていることを実践していないの!?」と心の中で叫んでいたはずです。


 大ベテランであるはずの管理職の職務怠慢によるしわよせが,子どもたち,そして一番立場の弱い新採教諭を襲い,彼らを苦しめたことに,原告代理人としては強い憤りを覚えます。


 文科省は,百合子さんのような犠牲を防ぐためにこそ、このガイドラインを発表したはずなのです。ところが先日の教頭、S教諭の証言態度からも明らかなとおり,平成16年から7年も経過した今でさえも、教育支援体制が確立していない学校はまだまだ多いのだと思わざるを得ません。


 百合子さんの母和子さんをはじめ,この裁判を続けてきた原告らご遺族のこれまでの心労は並大抵のものではありませんでした。ご遺族を支えてきたのは,「学校や教育委員会は,平成16年当時のT小学校における教育支援体制に問題があったことを認めてほしい。そして,このような被害が二度と起きないように,きちんと体制を改善してほしい。」という強い思いです。

 裁判官におかれましては,このような原告らの思いに正面からお応えいただきますよう,要望いたします。


 以上で,原告代理人からの意見陳述を終わります。

平成23年9月8日

静岡地方裁判所民事第2部合議係 御中

 原告訴訟代理人弁護士小笠原里夏