本訴にかける私たち遺族の思い

原告  木 村 憲 二
 私たちの次女百合子は,教師になることを夢見てそれを実現させ,小学校教師になったことを喜び,子どもたちの成長のために全力を尽くそうと心に誓い,頑張っていました。


 その百合子が,教師になってわずか半年で,突然,焼身自殺という痛ましい死に追い詰められてしまったことを知った時の私たちの気持ちは,到底言い表せません。クリスチャンでもあった百合子がなぜ自殺しなければならなかったのか,原因はどこにあるのか,せめてそれらを知りたいというのが,私たち遺族の最低限の思いです。


 今,心を病んで休職する教師が増加の一途をたどっていると聞きます。新聞記事によれば,平成22年末に公表された平成21年の公立学校病気休職者のうち精神性疾患による休職者は前年度に引き続き5400人を超え,過去最多となったとのことです。


 中でも新人教師たち,とりわけ1年目の「新採教師」については,平成21年11月4日に文部科学省が発表したところによれば,平成20年度に新規採用されながら依願退職となってしまった教員が304人,うち病気によるものが93人となっています。そしてさらに,この病気によるもののうち精神疾患は88人,実に94.6パーセントを占めています。平成22年に発表された平成21年度の数でも,1年で依願退職してしまった新採教員は302人,うち病気によるものが86人であり,その数,率とも10年前の5〜8倍とのことです。


 そうした中で,「新採教師の自殺」という痛ましい事例が,各都道府県から聞かれます。百合子の自殺は,まさにそのケースの一つです。


 教師のメンタルヘルスに日々関わっている東京都の三楽病院の精神科の女医さんは,教師が置かれている厳しい状況を次のように語っています。
「教師にとってやはり一番つらいのは,生徒と気持ちが通じない,指導がうまくいかない『生徒指導』のストレスです。それでも同僚や管理職との関係がよくて,みんなで支え合う雰囲気があれば何とかなります。ところが,生徒の関係がうまくいかない上に,周りから白い目で見られたり,厳しいことを言われたりして,精神的な悩みを深めて孤立感を増してしまうことが多いのです。」


 百合子は,まさにこうした状況のもとで自殺に追い込まれました。そして,全国には,百合子と同じ悩みとつらさに耐えながら,日々教壇に立っている数知れない若い教師たちがいるはずです。


 子どもたちが,子ども時代を幸福に生き,その後の長い人生を生きていく勇気と力が学校から育まれていくためには,すべての学校の教師に健康で安心して教育に当たる条件が整えられ,教師自身が幸福な笑顔で子どもたちの前に立っていなければならないはずです。


 この裁判での結論が,現在のこの国の教育現場の大変な状況を少しでも改善されていくことに繋がってほしい,これが私たち遺族がこの裁判にかける思いです。是非公正な判決をお願いいたします。