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獣医師をめざす子どもたち・生徒のみなさんへ

日本獣医師会のHPから

国家戦略特区による獣医学部の新設に係る日本獣医師会の考え方について

平成29年6月22日
公益社団法人日本獣医師会
会長 藏内 勇夫


 本会は従来から、我が国の獣医師の需給に関しては、地域・職域の偏在は見られるものの全国的な獣医師総数は不足していないことから、農林水産省のご支援・ご協力により6年制教育修了者への魅力ある職場の提供、処遇改善等による地域・職域偏在の解消に努めてまいりました。また、我が国の獣医学教育に籍しては、文部科学省、獣医学系大学等多くの関係者とともに半世紀にわたって国際水準達成に向けた教育改革に尽力してまいりました。


 今般、国家戦略特区制度に基づき獣医学部の新設が決定されましたが、全国的観点で対処すべき獣医師の需給問題の解決、及び長期的な視点で将来の在り方を十分に検証して措置すべき獣医学教育の改善については、特区制度に基づく対応は馴染まないと考えています。むしろ、現在優先すべき課題は、地域・職域対策を含む獣医療の提供体制の整備・充実、獣医学教育課程の改善にあり、このためにも獣医学入学定員の抑制策は維持する必要があるとの立場を従来から表明してまいりました。
 

 いずれにしても、獣医学部の新設を許可するか否か、また、閣議決定された4条件(1.現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化、2.ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになること、3.既存の大学・学部では対応が困難な場合、4.近年の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から検討)、大学設置等に係る認可の基準等に照らし、獣医学教育施設や教職員体制等については、国において決定されることです。現在、文部科学省に設置された大学設置・学校法人審議会において厳正なる審査が行われていると思われますが、公益社団法人である本会としては、この審議の推移を慎重に見極めるとともに、国においてどのような結論が下されるにしても、常に公平・中立な立場で国民生活に貢献できるようわが国の獣医療の発展に尽くして行かなければならないと考えています。


 なお、わが国の獣医師養成に関する経緯と課題は、次のとおりです。


○  獣医学は、第二次世界大戦後の抜本的学制改革の際、GHQから医学・歯学と同様に6年教育を勧告されましたが、諸事情により実施が遅れ、日本学術会議の勧告に基づき1977年に獣医師法等が改正され、漸く獣医学の6年制教育がスタートしました。


○  欧州諸国の獣医系大学は4〜8校程度で最も多いイタリアでも13校にすぎませんが、わが国には既に16校(国立10校、公立1校、私立5校)もあります。さらに、そのうち獣医学部は5校程度で多くは農学部等の獣医学科であり、6年制教育の目的であった臨床・応用獣医学等の実務教育充実の裏付けとなる教員数、講座数、施設・設備等の増設は極めて不十分なまま今日に至っています。


○  また、わが国の獣医学教育は、欧米に比べ、伝統的に基礎獣医学に重点が置かれていますが、獣医臨床などの実務教育が弱く、残念ながら、国際水準に立ち遅れているのが現状です。


○  国際水準の教育を行える教員・スタッフの数は限られています。山口大学鹿児島大学による共同獣医学部北海道大学帯広畜産大学による共同獣医学課程、岩手大学東京農工大学による共同獣医学科及び岐阜大学鳥取大学による共同獣医学科の設置など教育資源を統合し、スケールメリットを発揮させる取組も行われていますが、さらに抜本的な統合・再編整備が不可欠です。また、既存の私立5大学においても、長年にわたり教育改善の努力が行われてきましたが、未だ道半ばです。


○  このような中で、獣医学部を新設し、教育資源の分散を招くことは、これまでの国際水準の獣医学教育の充実に向けた取組に逆行するものと言わざるを得ません。


○  獣医学部の新設は、産業動物診療分野や家畜衛生・公衆衛生分野の公務員獣医師の採用難の改善に寄与するとの意見もあるようですが、これらの分野の採用難は、新規免許取得者の就業志向が小動物診療分野に偏在していること、民間に比べて就業環境が過酷で処遇が低いことが原因です。地方に獣医学部を新設し入学定員を増やしても、解決する問題ではありません。


○  このため本会は、公務員獣医師やそれに準拠している家畜共済診療所獣医師の処遇改善(初任給調整手当や福岡県における「特定獣医師職給料表」の新設)並びに離職した女性獣医師に対する就業・復職支援、産業動物診療獣医師に対する魅力ある実務研修の提供、大学教育における参加型臨床実習及び家畜衛生・公衆衛生実習の整備・充実等により、獣医師の偏在が解消できるよう、関係省庁の助成を活用しつつ積極的に取り組んでいます。