「子ども・子育て新システム」ではなく子どもの成長・発達する権利を保障する就学前教育の拡充を求めます

【全教の見解】
2012 年5 月22 日
              全日本教職員組合中央執行委員会


1.「社会保障と税の一体改革」の名のもとに、
「子ども・子育て新システム」関連3 法案
(「子ども・子育て支援法」
「総合こども園法」
「子ども・子育て支援法及び総合こども園法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」)
が今国会に提出されています。
 政府は、「子ども・子育て新システム」関連3 法案の趣旨を「子ども・子育て支援関連制度、財源を一元化して新しい仕組みを構築し、質の高い学校教育・保育の一体的な提供、保育の量的拡充、家庭における養育支援の充実を図る」とし、その財源として消費税増税を打ち出しています。
 しかし、法案の内容を見ていくと、幼保一体化と言いながら、幼稚園、3 才未満児対象の「乳児保育所」は存続し、それ以外の保育所と幼稚園の一部は「総合こども園」に移行、さらに地域裁量型こども園、小規模型保育施設は認めるとしています。最低でも5 類型の保育・幼児教育の施設が混在することになります。
 また、「保育の量的拡大」として待機児解消をいいながら、「総合こども園」には、待機児童の8 割を超える3 歳未満児の受け入れは義務付けられておらず、待機児解消にはつながらないものとなっています。


2.何よりも問題なのは、児童福祉法24 条を改悪し、市町村の保育実施責任をなくし、保護者の自己責任としていることです。
 新たに提案されている「子ども・子育て支援法」では、市町村の責務は「事業計画の策定」「あっせん」「認定」だけとなります。現行の児童福祉法24 条で「市町村は…保育所において保育しなければならない」と定めた公的責任を投げ捨てるものです。市町村の「認定」にもとづいた保育所探しから親の自己責任となり、市町村は「計画」をつくり「あっせん」するだけとなってしまうのです。これでは、子どもたちにとって安定した質のよい保育を保障することはできません。


3.さらに、企業が保育や幼児教育に自由に参入することを認めていることも大きな問題です。
 「総合子ども園法」では、指定管理者制度により営利企業の参入を認めています。「設置法人」は「利益を生じたとき」は「残余の額の一部を」「剰余金の配当」に充てることができるとしています。本来、学校を設置できるのは「学校教育法」の定めにより、国・地方自治体と非営利法人である「学校法人」だけです。ところが、今回提案されている「総合子ども園法」では、「総合こども園」において3 歳以上児に「学校教育」を保障するとしながら、「総合こども園法」を「学校教育法」の枠外に置き、本来非営利の「学校法人」にしか認めていない幼児教育分野への、企業参入の門戸を開いているのです。
 利益を優先する営利企業の参入は、保育や教育にはなじまず、正規職員を減らし非正規化する、給食を外部委託する、儲からなければ撤退するなど、いっそう劣悪な保育・教育条件を強いることにつながり、子どもたちの発達に大きく関わってきます。「子ども・子育て新システム」は、「質の高い学校教育・保育」どころか、就学前の子どもたちの保育や教育に必要な公的責任を投げ出し、産業化を促進する内容となっているのです。


4.「子ども・子育て新システム」でめざされている保育、教育の内容も問題です。
 「総合こども園法」では、第3 条で「教育及び保育の目標」を定めていますが、そこには「協同の精神並びに規範意識」「相手の話を理解しようとする態度」などが列挙され、「規範意識」や「態度」が強調されています。
 また、第4 条「教育及び保育の内容」では、「小学校における教育との円滑な接続に配慮しなければならない」として、ことさらに小学校との接続が強調されています。
 すでに「保幼小ジョイント期カリキュラム しっかり学ぶしながわっこ」を実施している品川区では、「小学校生活につながる保育・教育活動」として「保育室の正面を定め、落ち着いて話を聞く時間を長くする」「午睡のない生活リズムを確立する」「掲示物の文字環境を増やす」などが取り入れられています。近隣の小学校の教室を活用して小学校のチャイムに合わせて活動する「スクールステイ事業」もモデル実施されています。
 また、「たくましく生き抜く力の礎を築く・あだち5 歳児プログラム」を実施している足立区では、教育委員会がすべての公立保育所で5 歳児の昼寝を廃止するよう指示し、昼寝の時間をねらった抜き打ち調査まで実施されています。
 子どもたちにとって保育園・幼稚園は、「人生で初めて出会う集団」であり、幼児期の、のびのびとした豊かな成長・発達を保障する場です。現在まで積み上げられてきた保育・幼児教育の豊かな実践を踏みにじるような保育・教育内容の押しつけを許してはなりません。


5.対GDP比で見ると日本の就学前教育の公財政支出は、OECD諸国平均の1/2 以下という非常に劣悪な状況です。現行制度でも、就学前の条件整備は、大きく立ち遅れています。
 幼稚園においては1 クラスの園児定員が35 人と定められており、園児の発達段階にまったくそぐわない状況になっています。消費税増税後3 年以内に保育所と幼稚園の一部が移行するとされている「総合こども園」でも、保育・教育条件の改善される見通しはありません。
 それどころか「総合こども園法」では、「設備及び運営の基準」について学級の編制、教職員と保育室の床面積については基準を定めるとしていますが、園庭の有無(面積)や園庭内の設備、給食設備など「その他の事項」については、「基準を参酌する」としているだけで、基準に基づく設置義務は課されていません。地方裁量型こども園地方自治体の独自基準に基づく施設となり、小規模保育施設にいたっては、こども園の指定基準も下回り、しかも「参酌すべき基準」となっているのです。さらに、消費税を主な財源とする「こども園給付」「地域型保育給付」は個人給付となり、利用料の一部に当てられることになります。これでは、園の月ごとの収入が園児数、保育時間、サービス利用内容によって左右され、安定した園の運営ができないことになり、とても保育・教育条件の改善は望めません。
 「子ども・子育て新システム」の導入ではなく、国・自治体が責任を持った保育、幼児教育への抜本的な予算増こそが求められているのです。


6.全教は、「保育制度の解体を許さず保育の公的保障の拡充を求める大運動実行委員会」に結集して「子ども・子育て新システム」の導入を許さないとりくみをすすめてきました。
 3次にわたる署名を集め、国会に届け、昨年11 月3 日、今年5 月13 日に開かれた「すべての子どもによりよい保育を!大集会」の成功のために力を尽くしてきました。現在、「子ども・子育て新システム」関連3法案は、子どもたちの育ちに関わる重大な法案であるにも関わらず、国会の特別委員会において、消費税増税関連法案、年金関連法案とともに、一括審議されようとしています。
 子どもたちの成長・発達する権利を守る立場から、こうした暴挙を許さず、徹底審議、廃案を求めたたかいをさらに強めていくものです。


以 上