『1966年及び1997年の教員に関する勧告不遵守に係る教員団体からの申し立てについての中間報告(インテリムレポート)』 CEART勧告

 ILO・ユネスコ「教員の地位勧告」の適用を監視・促進する機構である「共同専門家委員会」(CEART)が、2008年4月末に行った来日調査の調査報告書と、実情調査を踏まえた勧告を含む中間報告書を10月29日に公表しました。
 今回のCEART勧告は、文科省教育委員会から主張・反論を聴取した上で、これまでの勧告内容を変更しなかっただけでなく、『教員の地位勧告』の遵守をこれまで以上に力強く文科省教育委員会に勧告しており、私たちの期待に応える画期的な内容になっています。

<2008年11月 全日本教職員組合(全教)訳)>

CEART勧告その3  16〜22項目

16.共同専門家委員会は、評価制度の原理、過程及び手続きとそれらの関連性について、受け止められ方がさまざまであるのは、この過程が比較的新しく、その開発への教員団体の関与が不十分であったこと、ガイドラインの解釈が教委レベルで異なっていたことなどが原因であると考える。したがって共同専門家委員会は、関係者全員が教員の能力を対象とした評価制度を理解できるようにするため、情報が共有される必要性を強調するものである。 

17.全教の最初の申し立てとその後に提供された情報は、政府と都道府県教委が教員評価制度を、教員の高度な職務遂行に報いるための昇給や賞与(勤勉手当)と連動する業績評価制度へと徐々に変化させていること、この業績評価制度が教員の同僚性と個々の専門性を損なうもので、客観的でなく、適切な手続き的保障に支えられているものではないこと、そして何よりも教員団体との有効な協議の対象とされず、教員団体によって同意されたものではないという主張をしていた政府はこの間、既存の評価制度は給与や労働条件を決定するための業績評価制度ではなく、より良い学習の実現を目的として教員の技術の開発と改善のために設けられた制度であると主張してきた。さらに政府によれば、評価や授業観察を行う管理職の訓練が行われているので、評価は正当で客観的である。評価結果は個人面接で教員にも知らされ、不服申し立ての手続きも保障されている。この制度の開発において教員の意見は取り入れたが、日本の法律はこれを管理運営事項にあたる問題としているため、教員団体との交渉は必要ないと主張した。

18.調査団報告を検討するにあたり、共同専門家委員会は1966年勧告が生徒、父母、その他雇用者など関係者の、質の高い教育に対する要求に応える教育当局の責任を否定していないことに留意する。その意味で、1966年勧告は、最適の教育サービスを組織しなくてはならない教育当局が、社会の変化に由来する課題と責任を有することを明らかに認めている。教員の能力に関してすでに述べたように、教員評価はそのような責任の一環である。さらに共同専門家委員会は、本件に関する2003年報告において、1966年勧告は雇用当局が給与決定の基礎となる公正な業績評価制度を開発し、実施することを認めている。しかし同時に1966年勧告の示す専門職の授業と有効な学習の原則は、高度な訓練を受けた専門職としての教員の学問的自由、判断、創意、責任 (academic freedom, judgement, initiative and responsivility)を強調している。このため1966年勧告によれば、教員の視学や監督は、教員が職務遂行の質を高めることを支援し、その自由、創意、責任に反して働くことのないように設計されなくてはならない

19.調査団は、日本では評価した業績に基づいて数量的な報償を与えるため、数量的な目標や基準を中心に教員評価制度を構築する傾向が強まっていることを確認した。これらは1966年勧告が求めている十分な養成を受け、意欲のある教員の専門職としての自由と責任、それらを衰退させる可能性がある。共同専門家委員会は、業績評価制度に対する教員の態度について、調査団の所見と同意見である。多くの教員は教員評価と金銭的な報償とを関連させることにほとんど利益はなく、批判すべき点が多いと考えている。報償は僅かであり、職務遂行への影響もよくみても功罪相半ばという程度である。これはより注意深い再検討を必要とする、憂慮すべき傾向である。例えば教員の受け止め方についての詳細な調査を行い、その結果の教職及び教育関係者全員の共有に基づいて、そのような再 検討が行われる必要がある。この問題のより広範な調査の結果によっては、1966年勧告で求めている個々の教員の専門職性と当局が公式に設定した基準との間の均衡を図るために、政策の方向転換が適切であるということもありうる。この点に関連して、共同専門家委員会はILO やOECDなどの国際機関の調査が、近年、業績給がチームワークや学校の運営に対して悪影響を及ぼしていることを示しており、個人別の業績給は教員を教職に引き付け、定着させるという点からは正当化できないと結論していると2006年報告で述べていることを想起する。

20.調査団の調査結果に基づき、共同専門家委員会は、2002年に初めて申し立てがなされて以降、教員評価の手続きとその運用に改善がみられたことに同意する。この改善には教員に評価結果がより広く開示されるようになったこと、報酬に影響を及ぼす良好以下の評価を受けた教員のための不服申し立て手続きが明確化されたことなどが含まれる。これらの改善は一部の県で運用されている業績評価制度の透明性を高め、主観性を低めることによって、1966年勧告の主要な規定により良く応えるものになっている。当局はこのような過程の改善措置を講じたことについて称賛されるべきである。

21.しかし、多くの課題がまだ対処されないまま残っている。それには以下のようなものが含まれる。
― 少なからぬ数の評価の妥当性について、教員と校長が批判を表明している
― 規模の大きな学校やより複雑な学習環境(特に特殊教育)において、校長や教頭が評価を行うのは困難である
― 女性教員が多数であるにも関わらず、その時間的制約に対する配慮が明らかに不足している
― 雇用当局が成績上位者の比率を制限しているために、評価が相対的な性質になっている
 共同専門家委員会は、1966年勧告の規定に則って業績評価の手続きと基準を可能な限り客観的、透明、公平なものにするためには、まだ改善の余地が多く残っていることを確認する。

22.1966年勧告が業績評価について教員団体との協議や、教員団体の合意が必要であるとしていることに関して、共同専門家委員会はこの制度の決定過程が明らかに1966年勧告に違反しているとした調査団の所見に留意し、それを確認する。したがって、以前の共同専門家委員会の報告で挙げられている理由から、この過程は改められなければならない。この線に沿ったより具体的な勧告は、以下の協議と交渉に関する部分で行っている。雇用当局と教員団体との適切な 協議があれば、教員団体によって代表される教員専門職の側の業績評価制度受容につながるが、そのような協議がなければ、1966年勧告の主要な規定が日本で遵守されているとは言えない。このような条件においては、より良い学習のための業績評価という究極的な目標は十分に達成され得ないだろう。