『1966年及び1997年の教員に関する勧告不遵守に係る教員団体からの申し立てについての中間報告(インテリムレポート)』 CEART勧告

 ILO・ユネスコ「教員の地位勧告」の適用を監視・促進する機構である「共同専門家委員会」(CEART)が、2008年4月末に行った来日調査の調査報告書と、実情調査を踏まえた勧告を含む中間報告書を10月29日に公表しました。
 今回のCEART勧告は、文科省教育委員会から主張・反論を聴取した上で、これまでの勧告内容を変更しなかっただけでなく、『教員の地位勧告』の遵守をこれまで以上に力強く文科省教育委員会に勧告しており、私たちの期待に応える画期的な内容になっています。

<2008年11月 全日本教職員組合(全教)訳)>

CEART勧告その2 3〜15項目まで

所見

3.共同専門家委員会は申し立てによって提起され、これまでの共同専門家委員会報告で検討されてきた問題の解決のための所見と勧告を決定するにあたり、事実調査団(以下、調査団)の報告を慎重に検討した。調査団報告が述べているように、2002年に全教からの最初の報告があって以降、本件の検討の中でCEARTは1966年勧告の規定に関わって主に3つの領域を問題にしてきた。
― 専門性の向上、報償、懲戒に関する措置を含む教員の能力評価について
― 教員の給与に関わる業績評価について
― これらの政策や運用に関する社会的対話の形式としての協議と交渉について
教員評価、指導力、懲戒的措置
4.最初の問題領域に関して、申し立ては教員評価制度の運用、特に教員を「指導力不足」(“incompetent”あるいは “without sufficient ability”)と認定する制度について、その教員に対する手続き的保障及び専門性の向上、支援、再研修のための措置を問題とする。
5.調査団報告が示しているように、共同専門家委員会は聴き取り調査を行った関係者全員が、日本の学校における授業と学習の水準を高めることを望んでおり、そうした質の高い教育の鍵となる役割を果たすのは教員であると認めていることに留意する。また、このような目的達成に貢献するものとして、効果的な教員評価制度が必要であることは広く受け入れられている。最近文科省が作成・公表した「指導が不適切な教員の人事管理制度に関するガイドライン」(以下、ガ イドライン)は、教員が職務遂行上必要な能力や資質を向上させることを可能にする総合的施策の重要性を認めている。しかし、教員評価の方向性をめぐっては見解の相違がある。政府及び都道府県の雇用当局は、高い専門的基準を満たしていないと判断された一部の教員について、再研修、職種転換、解雇などを行う必要性を強調している。一方、ほとんどの教員団体は、当局が提案しているような懲戒的措置を執行するのではなく、弱点を抱える教員が専門的な力量を高められるよう支援すべきであるとしている。
6.共同専門家委員会は、1966年勧告は効果的な教員評価制度を排除しているわけではないものの、勧告が「視学あるいは監督制度」とよぶものの運用にあたっては、教員の「自由、創意及び責任」(freedom, initiative and responsibility)を損なうことのないよう、専門的職務の遂行を奨励及び支援することが中心でなくてはならないと強調していることを想起す る。一見したところ、文科省が支持し、現在ではほぼすべての都道府県で実施されている教員評価制度は、これらの基本的原則に抵触するものではないようである。しかし、そうであるのはこの評価が可能な限り客観的なものであり、濫用の可能性から個々の教員を保護するための手続き的保障が確立されている限りにおいてであると共同専門家委員会は考える。問題の核心は、専門職として明らかに不適切な行為で、懲戒が学習者及び教育制度全体の利益に適うものである場合を除き、懲罰的な性格の強い規律措置を講じようとするのではなく、専門的な支援と再研修に重点がおかれているかどうかである。
7.また共同専門家委員会は、ガイドライン及び都道府県教委の制度において重視されている父母の批判に応える必要性に対しては、教員と父母との密接な協力関係は児童・生徒の利益に適うものではあるが、教員は「本質的に教員の専門職としての責任である事項」について父母による不公正または不当な干渉から保護されるべきであると、1966年勧告が明確にしている(67項)ことを想起する。教職全体にとっての高度な専門的基準において中心的な役割を果たす教員の「自由、創意及び責任」を尊重しようとするならば、個々の父母の懸念よりもむしろ、教育制度全体をより強固なものとすることの利益という観点から、教職の専門職性を保護すべく、教員評価制度は、これらの競合する要求を調停するべきである。
8.申し立ての核心は、教員評価がこれまで公式文書や報告の翻訳において“incompetent teacher”“without sufficient ability”“providing inadequate instruction”など、さまざまな用語で共同専門家委員会に報告されてきた「指導力不足教員」認定につながることである。共同専門家委員会は、 2008年2月付けで文科省が作成したガイドラインに反映されているように、この判定制度の改善が行われていることを認める。この点において、政府は称賛されるべきである。このガイドラインは、特に指導力不足教員の評価・認定において適用される資質、技術、知識、授業方法の定義を示し、より詳細な基準を用いることで客観性と基準の一貫性を高めることをめざしている。例えばガイドラインは、以前に教員団体が不適切であると批判した精神性疾患を認定基準として用いることについて、他の法律分野や医療分野の実践に基づいて保障を強化するように勧告している。同様にガイドラインは、同じ学校の他の教員や外部の専門家の意見を聞く機会を拡充させるよう求めている。
9.共同専門家委員会は、このような個人評価に基づいた人事管理制度の導入と運営においては、とくにそれが教職からの解雇をも含む懲戒措置につながることがある以上、政府と教員団体との間の協議が行われるべきであるという教員団体の意見に同意する。1966年勧告はこのような協議の必要性を明確に述べてい る。しかし、調査団に提出された証拠資料(evidence)及び調査団の所見からは、全国レベルで作成されたガイドラインも、都道府県レベルで導入された指導力不足教員制度も、教員及び教員団体との十分な対話とそれらによる関与がなく、さらに教員及び教員団体の支持なしに導入されたという結論が導かれた。この問題については、以下の社会的対話の項においてさらに述べる。
10.共同専門家委員会は、ほとんどの教員団体が、自分たちの意見やコメントがガイドラインに一定程度反映されたことを認めつつ、評価制度の性格に関して重要な問題が未解決のままであると主張していることに注目する。重要な問題とは、指導が不適切であるとされる教員の人事管理の基本的方向性及びその適用に 関することであり、「指導力不足」教員の認定基準、各々の関係者の役割と責任、意見を述べ、不服を申し立てる教員の権利などである。
11.共同専門家委員会は、入手できた情報によれば、少なくとも一部の県で使用されていると思われる基準には、専門的職務の遂行について客観的に適用する には依然としてあいまいすぎる、あるいは適用が困難なものがあるという意見に同意する。例えば、調査団にもたらされた情報によれば、一部の県教委は教員の私生活を判定の際に考慮することを今でも認めているが、もし実際にそうであるならば、不適切あるいは主観的な評価がなされている可能性がある。
12.共同専門家委員会は、調査団の報告に基づいて、指導力不足教員の判定手続きは依然として必要な透明性を欠いていると確信する。学校管理職からの最初の報告は常に教員に開示されるとは限らないし、教員にはそれに反論し、意見を述べる機会がないなど、調査団に提出された証拠資料は、指導力不足教員の評価の重要な初期段階において協調的あるいは専門的な環境がまったく欠如していることを示している。共同専門家委員会は、地方の教委が認定の第2段階において、必要なしと考えれば、報告を行った管理職や当該教員からの意見の聴き取りをせずに済ませることがあるという情報についても懸念する。さらに、調査団には教委段階の判定委員会への教員代表参加を認めているのはわずかな県でしかないという情報が教員団体からもたらされた。当局側は判定委員会には経験の長い元教員が含まれていると主張するが、共同専門家委員会は、それが、教室での困難や教員の業務遂行基準を最も良く理解している現職教員 (practising teacher) に十分代替しうるものではないと考える。共同専門委員会は、すでに2003年にそのような運用は説明不可能であり、専門的能力という基本的な問題に関わる場合に通常認められている方策に反するとした見解を示している。それにも関わらず、このような状態が事実であるとするならば、ますます驚くべきことである。
13.さらに、デュー・プロセス(適正な手続き)及び教員による制度受容の拡大という観点から、不服申し立ての手続きはいっそう強化されるべきである。これは、いかなる判定が行われる前にも、個々の教員が意見を述べ、代理人を立てる権利を保証し、不服申し立て手続きの公平性と実効性を確保することを意味する。調査団が報告しているように、不服申し立てが成功した例がまったくないという現状では、手続きを正当なものと認めるのは困難である。このような手続きは、全体としてみると、最初の報告段階における誤りを追認する可能性があり、そうでなくても教員の専門的な職務遂行や地位を左右する問題に関する適正な手続きへの信頼を損なう怖れがある。
14.共同専門家委員会は、不適切な指導の認定に関する問題に対する対処法の最初の選択肢として、改善的研修を重視すべきであると考える。教育公務員特例法の見直しはそのような傾向を強めることになるかもしれない。文科省と教委はカウンセリングや研修に十分な資源が充てられており、その質は高いと主張しているが、調査団報告は教員や教員団体から提供された、反対の趣旨の情報に留意している。例えば研修を受けた教員のうち、その後、教職に復帰する者はきわめて少数でしかないという情報がある。そのため共同専門家委員会は、指導力不足教員と認定された教員の研修は、当該教員のニーズを把握して、それにもっと適 応したものとする必要があると考える。文科省と一部の教委は、指導技術や資質が不適切と認定された教員が教室に復帰できるようにする努力の一環として、そのような改善の必要性を認めている。これには調査団に報告されたような研修受講に伴うスティグマ(恥辱感)を減じる措置も含まれるであろう。指導力不足教員を判定する教員評価制度が施行され続ける限り、今後、このような改善が積極的に追求されることが望まれる。
15.共同専門家委員会は、比較的少数ではあるが、改善的研修の効果がみられないと判断され、教員が教職以外の職に配置転換または解雇された事例があるという情報に留意する。後者の場合のような措置は地方公務員法とそれに関連する手続きに従って行われている。共同専門家委員会としては、これまでの報告でも、本報告の別の場所でも指摘しているように、当事者である個々の教員及び教育全体の利益となるよう、このような決定においては適切な手続きが踏まれなくてはならないことに注意を促すこと以外に見解はもてない。共同専門家委員会は、関連する法律や手続きが1966年勧告に則り、これらの諸原則を尊重しているものと信じている。