憲法を幾重にも蹂躙した「賃下げ法案」の強行成立に断固抗議する

地方への波及を許さず、すべての労働者の賃上げをめざすたたかいに、引きつづき全力をつくそう

2012年2月29日 全日本教職員組合(全教)中央執行委員会


1.民主、自民、公明3党の密室協議による議員立法として国会に提出された給与特例法案が、共産党社民党以外の各党の賛成多数により、本日参議院本会議で可決され、強行成立させられた。今回の議員立法による「賃下げ法案」は、重大な労働条件の変更・改悪であるにもかかわらず、労使交渉を一切経ることなしに提出された。この厳然たる事実は、労働組合の存在と交渉などの適法行為を否定する明白な不当労働行為である。使用者側の責任を放棄し、議員立法措置を容認した野田政権と民自公3党が果たした役割は犯罪的である。また、人事院勧告以上の賃金引き下げは、国家公務員の基本的人権と労働基本権を侵害するものである。憲法を幾重にも蹂躙する許しがたい暴挙に、憲法と民主主義擁護、子どもと教育、教職員に責任をもつ教職員組合の名においてきびしく抗議の意思を表明するものである。


2、国家公務員の賃金を平均で7.8%引き下げることを内容とした「賃下げ法案」は、昨年6月3日に通常国会に提出されて以来、一度も審議されることなく継続審議となってきた。 今年になって民主党政権は、「賃下げ法案」を今通常国会の早い段階で成立させるために、自民・公明との修正協議をつづけ、3党の合意にもとづく民自公の修正法案は議員立法により2月22日に国会に提出された。また、昨年6月段階では「地方への影響を遮断する」と政府は回答していたにもかかわらず、最終段階で自公が出した再修正案を民主党がさらに「丸のみ」し、地方自治体に「自主的かつ適切に対応されるものとする」との付則として法に盛り込まれた。「自主的」の名で地方自治体に「対応」することを求めることは、地方政治への介入であり、断じて認められない。


3.2月17日に閣議決定された「社会保障・税一体改革大綱」は、公務員が「自ら身を切る改革を実施した上で、税制抜本改革による消費税引上げを実施すべきである」とし、「国民の納得と信頼」を得るために、衆議院議員比例定数80削減法案の提出、給与臨時特例法案などの早期成立をはかるとした。民主党政権が、公務員の賃下げを消費税増税など国民犠牲の突破口と位置づけ、国民には「身を切る」姿勢を示し、一方で、国会運営を有利にすすめたいという党利党略で自公法案の「丸のみ」を続けたことは、これらの経過からも明らかである。また、政府と民自公3党は、賃下げ法案の提出理由として国家財政のきびしさと東日本大震災からの復興財源とすることをあげた。しかし、今日の国家財政の赤字は、アメリカと大企業奉仕というこれまでの政権の財政運営の誤りによるものであり、被災者本位の震災復興に本気で取り組もうとするなら、米軍への思いやり予算や大企業優遇税制の是正、政党助成金の廃止こそ優先させるべきである。震災復興のために、その先頭に立って奮闘を今なお続けている国家公務員をはじめ、教職員や自治体職員にその負担を求めるなど言語道断だといわなければならない。


4.全教は、全労連公務部会に結集し、2010年秋から公務員賃金の「深掘り」に反対するたたかいをすすめてきた。具体的には、2度の大臣交渉を含む6回の政府交渉をはじめ、賃下げ法案に反対する5000通を超える職場要求決議と7万5千を超える個人署名を政府に提出した。また、総務省や国会前における座り込み行動、中央と地方における公務3単産共同の宣伝行動や国会議員への要請行動、全国知事会や市長会、町村長会との懇談、全国人事委員会連合会などへの申し入れなど、粘り強く多彩に職場・地域における共同の輪を広げながらたたかいを展開した。このようなたたかいと道理あるわたしたちの主張が、昨年6月3日の賃下げ法案提出以降、法案強行の直前まで実質審議が行えない状況をつくりだす力となったことは明らかである。また、地方への波及問題について、参議院総務委員会の審議を通して、「公務員給与にかかる地方交付税を減額しない」旨の川端総務大臣答弁を引き出すことともなった。


5.この間のたたかいとその到達点に確信を持ち、地方への波及を食い止めるたたかいに全力をあげることを全国の教職員に呼びかけるものである。また、憲法が保障する基本的人権としての公務員の労働基本権の回復をかちとり、公務労働者の生活と権利を守るたたかいの前進をはかるために全力をつくすものである。同時に、全教は35人学級の前進と教育費の無償化など子どもと教育を守るたたかいと結合し、すべての労働者の賃上げを求めて12国民春闘における官民共同を追求するとともに、野田政権がねらう消費税増税社会保障の全面改悪を中心とした「税・社会保障の一体改革」に反対するたたかいを力強くすすめる決意を表明するものである。
以 上

日本国憲法に抵触する国家公務員賃下げ法国公労連(日本国家公務員労働組合連合会)宮垣忠委員長の参議院総務委員会での意見表明


2012.2/28(国公労連HPより) 


こうした意見表明の場を与えていただきましたことに、感謝申し上げます。
 昨年3月11日の東日本大震災では、自衛隊のみなさんも活躍されましたが、国の出先機関地方自治体で働く公務員も活躍しました。
 震災直後に道路などのライフラインを整備し、仙台空港をいち早く復旧させた国土交通省の職員、被災した多くの労働者に心温かく接した労働行政の職員、国民の財産や権利を一生懸命守った法務局の職員、被災にあった住民を支えた自治体の職員など、自ら被災にあって、家が流され、家族も失いながら、不眠不休で被災者の救援活動にあたってきました。また、全国各地の国や地方自治体の公務員が被災地に派遣され救援・復旧業務を続けました。今後、長期にわたる被災地の復興の先頭に立つのも、やはり私たち公務員です。
 こうした国や地方自治体の公務員が、賃金の削減を6か月を超えない範囲内で猶予される自衛官と比べて、どこが劣っているのでしょうか。
 また、国会議員の公設秘書の給与は、7.8%まで引き下げずに、人事院勧告通り平均0.23%の引き下げにとどめる秘書給与法改正案が衆議院で可決しました。
 自衛官や公設秘書に特例を設けるのであれば、せめて、自らも被災し、被災者のために一生懸命に尽くした被災地の公務員に対する特例があってもいいはずですが、この法案には、それさえもありません。
 なぜ、労働基本権制約の代償措置である人事院勧告のマイナス0.23%を超えて、平均7.8%まで生活の糧(かて)である賃金を下げられなければならないのでしょうか。
 課長・室長以上は、10%以上の賃金カットになります。10%の賃金カットは、懲戒処分の水準です。それも懲戒処分の期間は、普通、2か月から3か月ですが、今回の場合は、懲戒処分相当の賃下げが2年間も続くわけです。
 全国の国家公務員が懲戒処分を受けるような、何か悪いことでもやったのでしょうか。いま、職場はこうした道理のない賃金引き下げに対して、怒りに満ちあふれています。
 国家公務員の人件費が国の財政赤字の原因ではありません。2002年から2011年までの10年間に、自衛官を除く国家公務員は約80万人から約30万人まで減少していますが、その一方で国債等残高は約525兆円から約726兆円にまで急増しています。
 また、諸外国の公務員賃金は、リーマンショック金融危機のもとでも上がっていますが、日本の公務員賃金は下がり続けています。このことからも国家公務員の人件費が財政赤字を増大させた原因でないことは明らかです。
 震災復興の財源のために我慢しろというのなら、まず、はじめに、政党助成金や米軍への思いやり予算など、ムダな支出をけずるとともに、国会議員のみなさんの歳費の見直しも、あらためて行うべきではないでしょうか。
 それさえもされずに、消費税増税のために、自らの身を削ると言って、限られた予算と人員のなかで一生懸命、現場の第一線で国民の安心、安全を守るためにがんばっている公務員に賃下げのしわ寄せを押しつけられることに、怒りを禁じ得ません。全国の国公労連の仲間を代表して、まず、そのことを申し上げます。
 この間の政府との交渉で、国公労連は、賃金の引き下げに一貫して反対をしてきましたが、一部の労働組合は合意をされました。しかし、合意をされた労働組合が国家公務員全体を代表しているわけではありません。ましてや、国家公務員労働者に労働基本権が回復していないなかで、いくら、一部の労働組合が了承し、3党合意がなされて、議員立法で賃下げ法案が国会に提出されても、マイナス0.23%の人事院勧告を超えて、さらに平均7.8%まで2年間にわたって給与を引き下げる部分は、明らかに憲法違反だと私どもは考えています。
 本法案は、複数年度にわたり、人事院勧告にもとづかずに賃金を引き下げることになり、労働基本権制約の代償措置が機能せず、人事院勧告制度が画餅(がべい)に等しい状況に陥るわけです。これまでの判例では、代償機能が画餅に等しい状況に陥れば憲法28条に抵触するとしています。
 労使間で交渉が決裂し、使用者側が一方的に勤務条件を変更しようとしたときに、労働者側の対抗手段がない、労働基本権の回復がないままでの人事院勧告にもとづかない政府の一方的な賃金切り下げはもちろんのこと、今回のような3党の「議員立法」で、私たち労働組合の意見も全く聴かずに人事院勧告を超える賃下げ法案を国会に提出し、強行することは、国家公務員労働者の基本的人権を蹂躙(じゅうりん)するものです。
 公務員にどれだけ権利がみとめられているかは、その国の民主主義の度合いを図るバロメーターです。
 公務員も労働者であり基本的人権である労働基本権が全面回復されるべきです。そして、公務員も市民であり、市民的権利である政治活動の自由が保障されるべきです。
 そして公務員は、全体の奉仕者として公務を担当しており、公務員として職務遂行の権利が認められるべきです。例えば、憲法に違反するような公務運営が行われようとしているときに、それについて意見を述べその是正を求めることができる権利です。これは、憲法第99条の公務員の憲法擁護義務からくる公務員の当然の義務であり同時に権利でもあります。具体的には、上司の職務命令に対する意見の申し出や内部告発権の保障、政策の決定・執行や公務運営に対して関与・参加できるシステムなどが必要です。
 そうした権利が回復・確立されないなかで、労働基本権制約の代償措置である人事院勧告制度さえ無視をして、一方的な不利益を国家公務員労働者に押しつける今回のやり方を看過(かんか)することはできません。
 国家公務員労働者に労働基本権を全面的に回復する、せめて、協約締結権を回復してから、労使交渉で賃金引き下げの問題を議論するのが憲法のルールに基づいたやり方ではないでしょうか。
 日本国憲法に抵触するような本法案については、徹底した審議の上で、参議院で廃案にしていただくことをお願いして私からの意見表明とさせていただきます。