【全教談話】2009/08/05 

横浜市教育委員会の「つくる会」主導の歴史教科書採択に抗議し、侵略戦争美化の教科書を子どもたちに手渡さないとりくみの強化を』

2009年 8月 5日 全日本教職員組合 教育文化局長 今谷 賢二

1.横浜市教育委員会は、8月4日、市内18区のうち8区の市立中学校で2010年4月から使う歴史教科書について、「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーの主導のもとに編集された自由社版の教科書を採択する決定を行いました。
 自由社版教科書は、全国的に展開された「新しい歴史教科書をつくる会」主導の教科書採択運動にもかかわらず、きわめて少数の自治体でしか採択されていない扶桑社版教科書の「複写」教科書とさえ称されるものです。この点では、自由社版教科書は扶桑社版の問題点をそのまま引き継いでいるうえに、戦争の美化・正当化という特徴をいっそう色濃くしています。さらに、「複写」教科書の問題は、その著作権をめぐる裁判ともなっており、子どもや教育そっちのけの争いが続けられている点も見逃せません。
 だからこそ、自由社版教科書の採択は全国で初めてのものであり、今回の決定による8区・71校では、学年あたり1万3000人を超える中学生に使用させることを意味し、このような暴挙は許されるものではありません。多くの父母・市民の反対の声、韓国をはじめアジアの人々や団体からの懸念の声が広がる中で、これらの声を聞こうともせずに、採択を強行した横浜市教育委員会の暴挙に、厳重なる抗議の意思を表明し、採択の撤回、やり直しを強く求めます。
 
2.今期の教科書採択は、改訂学習指導要領への移行期にあり、2年間の限定された使用期間ということもあり、自由社版1社の教科書について検定が行われ、いったんは516カ所の欠陥を指摘され、不合格とされた経緯を持っています。
 再提出時も130カ所を超える検定意見が付された教科書であり、基本的な内容への批判とともに、「こんなずさんな教科書を子どもたちに手渡していいのか」といった厳しい声が寄せられてきました。
 教科書は、子どもの発達段階にそって、真理や真実が記述され、どの子にもわかるように十分吟味されて教材化されたものでなければなりません。歴史の真実をゆがめ、侵略戦争を賛美する教科書は、憲法の平和主義・国際協調の原則に背き、教科書として適格性を欠いていると言わなければなりません。
 
 21世紀の未来を生きる子どもたちに求められることは、侵略戦争と植民地支配の歴史に正面から向き合い、こうした過去の過ちを繰り返さず、平和な日本、友好と連帯にあふれた平和な世界をつくっていく主権者として成長していくことです。私たちは、子どもたちが世界に向かって堂々と胸をはって生きていくためにも、歴史の真実をゆがめ、侵略戦争を賛美する教科書の子どもと学校への押しつけを許してはなりません。
 
3.「つくる会」が主導する歴史教科書は、アジア太平洋戦争を「大東亜戦争」と記述し、「自存自衛」、「アジア解放の戦争」と記述し、侵略戦争と植民地支配を正当化しています。
 一方、原爆投下による被害の実相やアジア諸国民に与えた多大な加害については、ほとんど記述されていません。戦争を賛美し、「戦争は正しかった」と教えようとしている点がこの教科書の最大の特徴です。
 侵略戦争を肯定、美化するこの教科書の戦争・歴史観は、憲法の精神にもとづき、子どもの権利条約を生かした学校と教育への願いを踏みにじるものです。私たちは、全国で山場を迎えている今年度の教科書採択において、各教育委員会が、現場教職員の声をふまえ、政治的な圧力に屈することなく、憲法子どもの権利条約を踏まえた自主的判断にもとづいて決定することを求めます。私たちは、広範な国民のみなさんと共同して、侵略戦争を美化する教科書ではなく、よりよい教科書を子どもたちに手渡すとりくみに全力を尽くす決意です。
 以上

子どもと教科書を考える横浜市民の会 資料より

「戦争賛美」の教科書が2種類も! こんな教科書は選ばないで!

新しい歴史教科書をつくる会」のもとに作られた2社(「扶桑社」「自由社」)と、その他の中学校歴史教科書を比べてみると・・・。
◆神話の扱い
 実在しない神武天皇の東征神話をたっぷり紹介。神話と歴史を混同してしまいそうな取り上げ方です(扶30、自31)。
 他社は「『古事記』『日本書紀』の神話は、天皇と朝廷がこの国を支配するいわれを説明するための物語である」と正確に記述。

◆民衆の生活や一揆の記述
 幕末〜明治の部分で、他社には、開国と民衆生活、世直し、自由民権思想の内容、福島事件や秩父事件などが載っているが2社は無し。

◆史実を歪めてアジアを軽視
 韓国併合は「日本の安全と満州の権益を防衛するために、韓国の併合が必要であると考えた」と正当だったように記述(扶170・自172)。
 「太平洋戦争」を戦前のように「大東亜戦争」と呼称。「自存自衛」ための戦争であり、「アジアの解放」のためでもあったかのように記述。「日本の緒戦の勝利は東南アジアやインドの人々に独立への夢と勇気を育てた」「日本を解放軍として迎えたインドネシアの人々」と記述するが、アジアへの加害の事実はほとんど触れず(扶204〜07・自204〜207)。
 他社は「太平洋戦争」の呼称。大東亜共栄圏が虚構であったことやアジアでの被害事実を丁寧に言及。

日中戦争
 他社と異なり「盧溝橋で演習していた日本軍に向けて何者かが発砲する事件」と記述しているが、これは日本軍の発表で史実とは確認されていない(扶199、自199)。

◆戦争の悲惨さ
 東京大空襲沖縄戦、原爆など戦争の悲惨さの記述は希薄。いっぽう「よく働き、よく戦った」と国民の戦争協力は賛美(扶208〜211・自208〜211)。
 他社は、被害者数をあげるなど加害や被害の事実を記述。

昭和天皇
1ページ(自由社は2P)をあてて「国民とともに歩まれた生涯だった」と賛美。開戦の詔勅には触れず。(扶225・自226、227)