現場の苦難を理解しようとしない不当判決   

     裁判長「認定請求を棄却する」

たたかいは、2審東京高裁へ

3月22日(木)静岡地裁において、尾崎善子さんの公務災害認定を求めた裁判の判決がありました。裁判官が入場して、「主文 原告の請求を棄却する。理由は本文に書いた。」その程度の言葉があって終わりでした。実質1〜2分間の出来事。 傍聴に駆けつけた30人余は、「それだけ?」「負けた。」の思いで、重い沈黙の中、法廷を出ました。しかし、横の会館で塩沢弁護士から本文の内容を解説してもらい、また参加者の発言の中で、気持ちは怒りに変わっていきました。(注;本文は107ページにも及び、塩沢さんも渡されたばかりで、熟読できていたわけではありません。詳細は後日学習会を開いて検討します。)

まったく尾崎さんや学校現場の実態を理解しようとしていない不当な判決

平均人基準説、一般論の判決
判決は、小学校の養護学級の担任だった尾崎さんの過酷な労働実態を、尾崎さん自身の状況に沿ってつぶさに検討していません。むしろ極めて一般的な、被告の地方公務員災害補償基金静岡県支部支部長 石川県知事 以下「基金」)の主張したとおりの内容となっています。最近の判例に少しずつ出ているような、限りなく個人の立場に立って如何に大変だったかという個人基準説をまったくとっていません。大変さを他の人ならどうかのように、平均人基準説、一般論で判断しています。

因果関係は認めるが、相当因果関係とは認められない
 判決は、尾崎さんのうつ病発症の原因が公務にあったことは認めます。尾崎さんは体験入学を大変だと感じていた、しかし、公務の過重性や強度の心身的負担があったとは認められず、体験入学に対して「尾崎さんの過剰な反応」による精神的負荷があったので、尾崎さんの潜在的、個体的要因が顕在化したのであると言うのです。だから「社会通念上」「客観的に見て」公務災害と認めるのは困難と言うのです。

判決が「尾崎さんは大変ではなかった」という理由
 判決は、尾崎さんが大変でなかったとして、以下の理由を挙げています。
▲尾崎さんは、養護学級で2人の子の担任だったが、県内の養護学級は6割が4人以上で、学級の子が多いとは言えない。前任校で養護学級の経験もあった。
▲養護学級新設校への人事異動も、(静岡県の)教員なら珍しくもない。
▲通常定時退庁していたし、休日出勤も多くなかった。年休も取っていた。
▲特休を取った後引き継いだ講師なども問題なく担任を務めていた。
▲2週間の体験入学についても、事前に打ち合わせなど十分な対応があったので、不適当な対応とは言えない。期間も限定され、(2週間!)カリキュラムも余裕を持たせ、校長など誰かしら支援に参加することになっていた。
 いずれも、行政側の基金の言い分を丸ごと認めたものです。

原告の主張に対して答えを出していない、いくらでも反論できる判決

「こちらの主張に対し、多少とも検討しているのなら、納得することもある。しかし、判決はまったく答えていない。いくらでも反論できる。」と塩沢弁護士は言います。

学校教育、障害児教育を伝える必要がある

Uさん(元全教障害児教育部長)「証言に立った者として、裁判所に、学校教育の場のことを伝えていくのは、難しいと感じた。残念。
 体験入学が当然、前提だという判決である。障害児教育に対しての裁判所の無知がある。社会認知されていないのが残念だ。一人ひとりを大事にしようという教師が、子ども個々に合わせて仕事しているということが分かっていない。
 尾崎さんの場合の体験入学では、具体的な子ども同士の関係があった。幼稚園時代からの、いじめにもつながる深刻な問題があった。(一般的なことではない。)
 しかも、体験入学時に、入れ替わり立ち替わりの『支援』があったと言うが、それが教師に与えるプレッシャーの意味が分かっていない。さらに、入れ替わり立ち替わり人が来るということが、自閉の子には大変なことが分かっていない。裁判所が無知なことに怒りを感じた。」
 Iさん(中学校教員)    「中学校で養護学級の担任をしていた。普通学級の担任とはまったく別の仕事である。普通学級の教師の経験はほとんど通用しない。裁判所が分かってくれないのが残念だ。毎日の生活も教える内容も違う。
 しかも、尾崎さんは経験も浅いのに、新設の養護学級に代わった。そのプレッシャーや経験のない学校の体制の不十分さを分かっていない。大変なんだ。」
 S支援する会会長  「尾崎さんは転任前はたった1年の養護学級経験しかなかった。それで養護学級が新設される学校へ転任というのは、不当配転だ。
 それでも、尾崎さんは、教員だからと自分に言い聞かせるようにやっていたんだろう。にもかかわらず、裁判所はその点への配慮がない。
 発症の因果関係を認めながら、公務災害にならないのも許せない。」
 受け持つ子どもが何人であろうと、その大変さはその時によって違うことは、教職員なら誰でも知っていることです。また、勤務時間だけで大変さをはかることはできません。実際には尾崎さんが持ち帰り仕事や帰宅後の研究、自主的な学習などがやっていたことは証明されています。

個々の労働の質に目を向けさせよう

 「責任感あってまじめな教員が、『社会通念上』で自己責任にされたら、誰も公務災害にならなくなってしまう。」 
 塩沢弁護士 「過労死や過労自殺などはだいぶ進展してきた。しかしまだ、労働時間の長さなどが基準となっている。個々のおかれている状況の中で、労働の質に目を向けた判決がほしかったが、静岡地裁ではそうではなかった。」
 尾崎さん(弟さん) 「希望を持って傍聴に駆けつけていただいたのに、現実はそうではなかった。学校現場の大変さを司法が無視しているようでは事故はなくならない。」

東京高裁に向けて

 高裁に提訴すると、裁判所から50日以内に趣意書を出せと言ってくるとのことです。第1回目の裁判は3カ月後くらいになるようです。即日結審という裁判もあるようですが、今回はそうはならないとのことです。
 「地裁と同じように、意見書や署名を集めてください。こんな判決出されたら、たまらん!の声をいっぱい集めてください。」と塩沢弁護士。
 安健センターの橋本さんから、「静岡高教組は10年前、13年間のたたかいで、地裁で負けて高裁で大逆転させたことがある。あきらめずにがんばろう!」と激励がありました。浜松でも、塩沢さんが関係した労働災害認定のたたかいで、高裁逆転勝利の経験があるとのことです。
引き続きのご支援をお願いします 
どうぞご意見もください。東京高裁への傍聴もお願いします。