不当介入

【全教談話】

国民に「密告」を求め、教育へ不当に介入する

自民党『学校教育における政治的中立性についての実態調査』」の即時中止を求める

2016年7月19日
全日本教職員組合(全教)
書記長 小畑雅子

 自民党は、党のホームページ上で「学校教育における政治的中立性についての実態調査」(以下「調査」)を実施しています。


調査は、「教育現場の中には『教育の政治的中立はあり得ない』、あるいは『子供たちを戦場に送るな』(後に「安保関連法は廃止にすべき」と変更、その後削除)と主張し中立性を逸脱した教育を行う先生方がいる」として、「政治的中立を逸脱するような不適切な事例をいつ、どこで、だれが、何を、どのように行ったのかについて具体的に記入」するように求めています。
 政権与党が学校教育に関わって、実態調査と称して国民に「密告」を求め、教育へ不当に介入することは、断じて許されるものではありません。
 全教は、自民党の調査の即時中止を強く求めるものです。


 教育基本法第14条は、「良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない」としており、18歳選挙権が実現したもとで、発達段階に応じた主権者教育が豊かに積み上げられていくことこそが求められています。
 「政治的中立性」の名のもとに、自由闊達な政治的な議論を規制する今回の調査は、現場を萎縮させるだけです。マスコミからも、「ホームページは『偏向した教育が行われることで、生徒の多面多角的な視点を失わせてしまう恐れがある』とするが、自民党はそれをそっくり自らへの指摘と受け止めるべきだ」(7月12日付朝日新聞社説)など、厳しい批判があがっています。


 14条第2項が、「法律に定められた学校は、特定の政党を支持し、またこれに反対するための政治教育その他の政治的活動をしてはならない」としているのは、戦前の軍国主義教育への反省から、国民主権のもとでの「政治的教養」を教育上尊重するために、特に学校による党派的な政治教育や政治活動を禁止したものです。抑制されるべきは、国家や権力による教育への介入です。


 今回の調査では、当初不適切な事例として、「子供たちを戦場に送るな」が挙げられていましたが、戦争放棄をうたった日本国憲法の立場から考えても、「子どもたちを戦場に送るな」という教職員の願いは、至極真っ当なものです。それを不適切とする自民党の見識が疑われます。国民からの厳しい批判によって、文言は変更、削除されましたが、日本国憲法を踏みにじり、「戦争する国」づくりをすすめる自民党の本質が表れたものと言わなければなりません。


 調査の前文にも書かれている自民党提言は、「教育公務員の政治的行為の制限違反に罰則を科すための教育公務員特例法の改正」を挙げており、秋の臨時国会への法案上程も取りざたされています。そうしたもとで、馳文科大臣が定例記者会見において、今回の調査について、「自由民主党という立場においても、多分実態が分からないので、さてどうしたものかという中での一案だと私は受けとめています」と答えたことは、政権与党による教育への介入を是認するものであり、容認することはできません。


 今回の自民党調査は、学校と教育のみならず、国民の思想・信条の自由を侵し、相互監視社会をつくろうとするものです。全教は、国民に「密告」を求め、教育の自由、教職員の政治的自由に不当に介入し、国民の自由を奪う自民党調査を許さないたたかいを、幅広い国民の皆さんとともにすすめていく決意です。