【全教談話】

高校生の基本的人権を不当に制限するなど、憲法子どもの権利条約に反する「通知」は撤回せよ!

〜「高等学校における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について(通知)」について
2015年10月30日 全日本教職員組合(全教) 書記長 小畑 雅子


文部科学省(以下、文科省)は10月29日、高校生の政治活動を禁止した「高等学校における政治的教養と政治的活動について(昭和44年文部省初等中等教育局長通知)」(以下、「69通達」)を廃止し、新たに「高等学校における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について(通知)」(以下、「通知」)を発出しました。
 全教は、一貫して「69通達」を廃止し、高校生の政治的活動を認めることを求めてきました。今回、「69通達」を廃止するとしたことは、当然のことであり、高校生が主権者としての自覚を高め、政治的教養を深める重要な契機とすることが求められています。そもそも国民主権にもとづき国民の代表者を選出するなど政治に参加することは、最大限に保障されるべき権利であり、そのことなしに民主主義は成り立ちません。高校生に対しても限定することなく保障されるべきことは言うまでもありません。
しかし、新たに示された「通知」は、高校生の基本的人権である政治的活動の自由や有権者としての権利を不当に制限し、政治的教養を育むべき政治教育のあり方を歪めるもので、憲法子どもの権利条約に反し、高校生が政治的教養を深め、主権者として成長することを阻害するものとなりかねません。


 具体的には、主に以下のような問題点を持っています。
(1)生徒の政治的活動等について、学校長は「必要かつ合理的な範囲内で、在学する生徒を規律する包括的権能を有する」として、「生徒による政治的活動等は、無制限に認められるものではなく、必要かつ合理的な範囲内で制約を受ける」としています。「必要かつ合理的な範囲」を定める権限は学校長にあることになります。このことは、生徒の基本的人権よりも学校長の権限を優位に置くことにほかならず、「侵すことのできない永久の権利」としている憲法に反するものです。


(2) 「生徒が政治的活動等に熱中するあまり、学業や生活などに支障があると認められる場合」などをあげて、学校は「禁止」も含めて「適切に指導を行う」としています。「支障がある」かどうかを判断するのは学校となっており、高校生の人権が不当に制約されかねないものとなっています。


(3)さらに、高校生の政治的活動等について、学校の権限外である「学校の校外」や家庭にまで言及し、制約しようとしていることも重大です。高校生の人格をその生活場面すべてにおいて管理・統制することにつながるものです。


(4) 「通知」は指導上の留意事項として、「教員は個人的な主義主張を述べることは避け」としています。また、「教員は、…その言動が生徒の人格形成に与える影響が極めて大きいことに留意し、学校の内外を問わずその地位を利用して特定の政治的立場に立って生徒に接することのないよう、また不用意に地位を利用した結果とならないようにすること」としています。
法で禁じられている「地位利用」は、公務員が職務権限を行使して考えを押しつけたり、政党支持を強要するなどの極めて限定的な行為で、教職員が生徒とのかかわりの中で個人的見解を述べることまで禁じているわけではありません。にもかかわらず、「地位利用」の概念を無限定に広げて政治教育に適用することはあってはならないことです。


 子どもたちが、真に政治的教養を育むためには、学問の自由、表現の自由、思想・良心の自由などが全面的に保障された環境が必要です。また、教育の条理にもとづき教職員の教育活動上の自由が保障されるべきことはいうまでもありません。


 全国高等学校PTA連合会の意見書でも、選挙権が付与された時点で高校生を「政治的仲間」として迎えるとともに「『未熟な若者』として見下したり、保護と引き換えに権利を抑制したりすることは許されない」とし、「生徒を信じ、生徒自身にしっかりと政治・社会・経済など現実の諸問題を考究させる姿勢と度量が社会全体に求められている」と主張しています。また、学校の教員についても「現行の法制以上に規制法令を用意することは教員の指導意欲をそぐとともに、指導内容の貧困を招く」と教員への規制強化の動きも批判しています。
本来、有権者であるかどうかに関わらず、政治的教養を育むべき政治教育は、すべての子どもたちに保障されなければなりません。また、子どもたちが政治的教養を深め、社会的・政治的事象を正しく認識するためには、「現実の具体的な」ものも含め政治的事象に対する自由な意見表明が保障されなければなりません。さらに、有権者となる18歳に達した高校生には、それにふさわしい政治的活動や選挙活動の権利が保障されなければなりません。


 全教は、「69通達」の廃止を前提に、今回の「通知」の撤回と憲法子どもの権利条約にもとづき、子どもたちの政治的教養を育む教育を保障し、高校生の有権者としての権利を保障する施策の充実を強く求めるものです。                                     以上

↓ 全国高校PTA連合会の意見

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/118/shiryo/attach/1363102.htm