学校や子どものことは、今やらなければ…

子どもたちが豊かに学べるために教育予算の増額を! 〜「教育全国署名」の訴え

「40人学級」からなかなか進まなかった学級編制基準

 戦後10数年ごとに、50人学級→45人学級→40人学級と学級編制基準が改善されてきました。50年前、1958年に義務制第1次定数法「50人学級」が実現した際、当時の文部省局長は「欧米各国は大体30人から35人の範囲でございます。我が国でもできるだけ生徒数を低くしたい」と答弁していました。
 ところが、1980年義務制第5次定数法により小中が「40人学級」に、1993年高校第5次定数法により高校が「40人学級」になっていきましたが、その後改善されなくなってきました。定数法または標準法と言われる「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」が改正されないからです。この法律は、養護学級(特別支援学級)の定数(1993年の「8人学級」(それまでは「11人」)から改善がありません。)、複式学級の基準、養護教諭(保健室の先生)や学校事務職員の配置基準ともなっています。
子どもたちによりゆきとどいた教育をするために、「この定数を減らしてほしい(「定数法」を改正してほしい)」「国の責任で少人数学級を」「せめて35人学級を」「欧米のように、25人学級を」と訴えてきました。

国の措置を待てずに地方が少人数学級に動き出す

 そんな中で、国の措置を待っていられないと、1990年代に多くの自治体が独自に「少人数学級」実施の措置を取り始めました。町名、役職は当時のものです。

長野県小海町教育長1998年

「道路は1年や2年遅れても、その時みんながちょっと我慢すればすむが、学校や子どものことは、今やらなければ6年生は卒業してしまうし…、教育というのは1年も猶予がないもの」

山梨県鰍沢町1998年

「過疎の町の町おこしを考えると、『自然のある町』だけでは、人は来ない。『子どもたちのいる町づくり』にして、子どものいる大人を誘致しよう」

埼玉県志木市教育委員会2001年

小学校低学年25人学級に。「一人の担任の目が、気持ちが行き届きます。教室も広く使えます。個別指導を中心にしっかり学習を見ます。個人の発表や活躍の機会が多く取れます。…」

山形県知事2002年

「何よりも私は、子どもたちの未来を開くことに、未来への責任を最も強く感じております。次代を担う子どもたちが生き生きと元気に育ってほしい、持てる能力・才能を十分に伸ばしてほしいと思うのであります。『子育てするなら山形県』を目指します。少人数学級の実現は、その大きな柱になるものであります。」

山形県の教師の報告

山形県で、小学校全学年に「さんさんプラン」のネーミングで30人学級が実現しています。 「さんさんプラン」で一番喜んでいるのは子どもたち。「先生がね、ぼくの話を最後までよく聞いてくれるよ」「わかるまでていねいに教えてくれるよ」「友達が増えて、みんなと遊べるようになった」「毎日の勉強が楽しくて」と学校大好きになっているんです。先生方は、毎日の教育活動に自信を取り戻し、子どもたちに寄り添う活動を進めています。「気持ちにゆとりが生まれ、常に焦りがなくなった」「子どもたちをしかる場面がぐんと減ってきた」「あの子にも、この子にも、今日もしっかり教えることができた」「(山形弁)こごわがんねっていわっちえも、ゆどりもっておしぇでやれる」。

岩手県の少人数学級の調査報告

平成19年度岩手県の小学校第1・2学年での35人学級の効果と課題調査報告はでは次のように述べています。「『総じて児童生徒の学力が向上した』と回答した校長の割合は96%(そう思う44%,どちらかといえばそう思う52%,昨年度91%)である。また,『授業につまずく児童生徒が減った(学力の底上げが図られた)』と『児童生徒が授業中に発言・発表する機会が増えた』の項目において効果があると回答している割合が,98%であることをはじめ,『児童生徒の学習に対する意欲・興味・関心が高まった』(96%),『活動スペースの確保により,児童生徒の学習活動(体験型学習)の幅が広がった』(90%)等,ほとんどの項目においてその割合が90%を超えている。」「生活面の効果としては、『児童生徒の基本的な生活習慣が身についた』『学級集団としてのまとまりがみられるようになった』という質問に対し『そう思う』『どちらかといえばそう思う』と回答している割合が96%であることをはじめ,すべての質問項目で90%を超えている。」

磐田市の少人数学級の調査報告

静岡県磐田市は平成17年度から35人学級編成を行っています。その『35人学級制度導入効果に関する検証報告』では、例えば、保護者へのアンケートでは「40人編制と35人編制のどちらがよいかについては、ほぼ100%の保護者が35人編制を望んでおり、年度ごとの割合に大きな変化はない。35人学級制度を他学年に広めたいかについては、ほぼ9割の保護者が拡大を望んでおり、年度ごとの割合に大きな変化はない。」としています。

最後に残った東京都も

こうして、現在国の財政措置が不十分な中でも、東京都を除く46道府県で何らかの「少人数学級」が実現するようになり、ついに昨年4月から最後に残った東京都でも、「39人学級」を導入するようになりました。頑なに拒んでいた東京都教委(実は石原都政)でしたが、世論の動向や学校現場からの悲鳴の中で、少人数学級に踏み込まざるを得なくなってきたのです。

大阪府教育委員会の「少人数学級編制の効果検証平成22年度」

平成19年度から小1、2を少人数学級編制にしている大阪府教委の効果検証では、平成22年度は、「欠席率の減少」、「学習到達率の向上」や保護者の肯定、一人ひとりに目が行き届くようになったなどを効果としてあげています。

このように、国の制度的な保障もなく、時には国から脅されても、子どもに必要だからと、自治体独自の予算等のやりくりで少人数学級が広がってきました。
 では、静岡県はどうだったのでしょうか。

静岡県では…

 02年9月当時の静岡県知事は「本県自身が数十年にわたってそのような単独の負担に耐え切れるかどうかというような観点の発想も必要で…、 加えてまた、 単純に40人学級が達成したから30人学級でいいのか、 …言葉は悪いんですが単細胞的な議論ではなくて、 本当に教育の実を上げるためには…多様な手段、 手法、 それの組み合わせの中でいかによい教育、 実効ある教育活動が実践されるか、 これが問題だと思うのであります。 」と答えていました。
 しかしさすがに学校現場・保護者の声を受け、また全国の流れの中で、04年から中1支援プログラムという形で、(学校の希望選択による)中1だけの「35人学級」を始めざるを得なくなりました。学校の希望選択になっているのは、国の制度が変わっていないので、正規教員が増やされず、学級数が増えると持ち授業時数が増えるなど、教員の負担を増すことになるためです。現在でもこの仕組みは変わっていません。
 08年10月静岡県「理想の学校教育具現化委員会」が、「静岡式30人学級」などを県に提言しました。ようやく静岡県も、と喜んだのですが、結局財政難を理由に、「静岡式35人学級」となり、09年に中2に、そして昨年中3と小6、今年小5に拡大しました。順次小3まで実施すると言っています。但し、私たちが早くから要求してきた小学校低学年に対しては、「支援事業」にとどまっています。 
 低学年支援事業(一昨年まで小1だけが対象)は、「34人以上の多人数学級2クラスに1人の割合で配置」されて一定の効果を上げています。しかしこれは、雇用交付金を使った「担任の補助」をする(授業をやってはいけない)「学習支援員」の配置です。少人数学級にはほど遠いものです。

ようやく文科省も動き出し、小1の35人学級実現

 昨年文科相の諮問機関である中央教育審議会中教審)の初等中等教育分科会は「30人または35人に見直すべきとの意見が大勢」、「人の面の充実にはお金もかかるが、思い切ってやらなくてはいけない。」と国の積極的な取り組みを提言・要請しました。そこで文科省は、教育関係諸団体の意見聴取を受け、小1、2を手始めとした35人学級、その後に30人学級を実現するという計画を打ち出しました。
 この計画は残念ながら、財務当局の反対の中で、小2が削られました。それでも今年、小1の35人学級実現までこぎつけました。また、昨年の文科省の30人学級に至る計画は、白紙になったわけではないので、この夏からの要求・要請が大事になってきています。
 小川正人放送大学教授(中教審委員)は、30人学級を小中学校の全学年で一気に実施するには、約11万人の教員増が必要で、国と地方合わせて7300億円、35人学級の場合は約4万6000人増、3100億円が必要と試算しています。「40人学級」実施の際は、全学年一気に実施したわけでなく、10年をかけて実現しました。
 たとえ「財政難」であっても、実現できない額ではないのです。この署名運動などで追い風を吹かせたいものです。

教育予算:日本、OECDの中でも、ワースト1

 OECD「図表で見る教育10年版」によると日本の2007年の教育予算のGDP比は3・3%で、OECD加盟国28カ国中ワースト1です。OECD平均は4・8%。3・3%は88年の調査開始以来、最低の数字です。(OECD「図表で見る教育10年版」はインターネットで見ることができます。)

私費負担に依存する日本

 財務省はこれに、「わが国はOECD諸国の中で人口比の生徒の割合が最も少ない」「わが国の生徒一人当たり教育支出は米英独仏日の主要五カ国の平均並みの水準」などと弁解しています。
 しかし、日本の教育支出に占める私費負担の割合の高さは突出しています。つまり、国や自治体の公費負担があまりにも少なすぎるということです。
 日本の教育費に占める「私費負担」の割合がとても高いことは、先のOECD「図表で見る教育10年版」(2007年)からも分かります。例えば、【就学前教育】では、日本の私費負担は56.2%、OECD平均は20.3%です。また【高等教育】にいたっては、67.5%にものぼっています。OECD平均は30.9%です。この数字は、昨年度の「公立高校授業料無償化」により、一定の改善がはかられました。しかし静岡市内の高校生の4割を占める私学の高校生は、国からの就学支援金を差し引いても平均年額20数万円の授業料を払うことには変わりがありません。公立高でも、授業料以外の徴収金は数万円から10数万円にもなっています。
 大学まで無償化しているノルウェーフィンランド、フランスなどと比べ、日本の教育費が、家庭の支出に依存していることは変わりません。この不況の中で、日本の子どもたちがさらに格差の影響を受けることへの心配の声が上がっています。

教育格差は子どもの「自己責任」とされてしまう

厚生労働省は、全国民の中で生活に苦しむ人の割合を示す「相対的貧困率」がまた悪化して、09年で16.0%と発表しました。その中で「子どもの貧困率」も示しています。それによると、17歳以下の子どもの貧困率は、98年13.4%、01年14.5%、04年13.7%、07年14.2%、09年は15.7%という深刻なものです。
 全国私教連の調査では、経済的理由で中退した生徒のいる高校は17.3%、3カ月以上滞納を抱えている生徒のいる高校は59.6%、経済的理由による中退生徒数は、回答した324校で143人もいるということです。就学支援金や自治体の補助制度などで若干の改善もあるようです。でも、私学といっても家庭の所得が高いという訳ではなく、むしろ逆の傾向も出ています。
 子どもの教育を受ける権利が、家庭の経済によって影響されてしまうことを示しています。

「学校や子どものことは、今やらなければ…、

教育というのは1年も猶予がないもの」

 現在、東日本大震災福島原発事故により、被災地の子どもたちや学校は多くの困難を背負っています。そこに必要な予算を振り向けることは、行政の最優先の課題です。
 しかし、それだけでなく、被災地も含む全国の今を生きる子どもたちに、学校や教育について「今は我慢して」というわけにはいきません。
 使い方を見直せば、教育予算の拡充、30人学級の実現、私学への大幅な助成、障がい児教育充実などの予算は、十分にあるのです。多くの声・署名を、国や県に届けましょう。

「教育全国署名」にご協力ください。