全教談話 広島市立「平和教育プログラム」の教材から「はだしのゲン」および「第五福竜丸」の記述が削除される問題について

2023年3月15日

【全教談話】 注;引用の際、段落等を少し変えてあります。

 

広島市立「平和教育プログラム」の教材から

はだしのゲン」および「第五福竜丸」の記述が

削除される問題について

          全日本教職員組合(全教)

          書記長 檀原毅也

 

 広島市教育委員会は「広島市立『平和教育プログラム』」を策定し、その一環として

2013年に副教材「ひろしま平和ノート」を発行しています。

ひろしま平和ノート」には漫画「はだしのゲン」の一部と第五福竜丸について掲載さ

れていましたが、平和教育プログラムの改訂にあたり、この部分が削除されることが明

らかになり、大きな問題となっています。

 もとより教育課程は児童・生徒の実態から各校で編成されるべきものであり、どのよ

うな平和教育を実施するか、どのような教材を用いるかについては、それぞれの学校の

教職員が集団的な議論を通じて決定すべきです。

 

広島市立学校でも「ひろしま平和ノート」も含め使用する教材を検討し、それぞれ平和

学習の実践が積み重ねられてました。

 「ひろしま平和ノート」は小学校1・2・3年、4・5・6年、中学校、高等学校のそれぞ

れの版が作成されています。

小学校1・2・3年版のうち、3年生対象の「せんそうがあったころの広島」の「家族のき

ずな」「引きさかれる家族」という学習テーマの題材として「はだしのゲン」の一部ペ

ージが掲載されています。

また、高等学校版の「被爆体験者が伝えること~中沢啓治さんからのメッセージ~」と

いう題材にも「はだしのゲン」の一部カットが掲載されています。

また中学校版の「核兵器をめぐる世界の現状」の学習テーマに「マグロ漁船第五福竜丸

の被ばく」が記載されています。

今回の改訂で小学校1・2・3年版の該当部分と中学校版の「第五福竜丸」の記述が削除

されています。

 

 広島市教育委員会は「はだしのゲン」を外した理由を、平和教育プログラムの改訂に

ついて検討した有識者会議で、委員から「児童の生活実態に合わない」「誤解を与える

恐れがある」という意見があったと説明しています。

また、「第五福竜丸」の削除については「福竜丸が被ばくした記述のみに留まり、実相

を確実に継承する学習内容となっていない」と説明しています。

はだしのゲン」にかわり、被爆者の体験を親族に聞きとった資料が、また「第五福竜

丸」の記述にかわりビキニ環礁など世界の核実験被害地の地図が、それぞれ掲載される

とのことです。

 

 しかし、2つの削除が子どもたちの学びのきっかけや学習の広がりを失うことにつな

がる恐れがあります。

削除によって平和教育が後退してしまうことも懸念されます。

 現在、ロシアのプーチン大統領ウクライナ侵攻をやめようとしないばかりか、核兵

器の使用にたびたび言及し、アメリカとの核軍縮の枠組み「新戦略兵器削減条約(新

START)」の履行停止を宣言するなど、核兵器廃絶の潮流に逆行する動きが現れていま

す。

 日本でも、一部の政治家が「核共有」に言及し、「安保3文書」が閣議決定され、

「戦争する国」づくりを進める動きが急です。

 

このような情勢のもとで、原爆投下の実相を描き、その非人道性を告発し、明確に反戦

核兵器廃絶を訴える教材が削除されることに多くの人々が不安を抱いています。

なぜならば、2つの教材の削除が、歴史に向き合おうとしない日本政府の姿勢と重なり

合って見えてくるからです。

 

 8月6日の平和記念式典で「核兵器廃絶とその先にある世界恒久平和の実現に向け、被

爆地長崎、そして思いを同じくする世界の人々と共に力を尽くすことを」誓う平和宣言

を発表する広島市における平和教育に、国内外の平和を願う人々は重大な関心を寄せて

います。

 

広島市教育委員会には、有識者会議の議事録公開にとどまらず、削除に至る検討の過程

などを説明し、市民とともにこの問題を考えることが求められています。削除ではなく

記述内容を充実させることも検討されるべきです。

 

 全教は引き続き、歴史に向き合い「教え子を再び戦場に送るな」の決意のもと、憲法

子どもの権利条約にもとづく、ゆきとどいた教育を実現するために奮闘する決意で

す。

 

                            以上